(事例紹介)「びんずる尊者像」を窃盗の疑いで男を逮捕②
【事例】
5日午前、長野市の善光寺の本堂に置かれ、なでることで御利益があるとされている「びんずる尊者」の木像が盗まれ、およそ2時間半後に60キロほど離れた松本市内の車の中で見つかりました。
この事件では車を運転していた熊本県の男が盗みの疑いで逮捕され、6日、検察庁に送られました。
捜査関係者によりますと、容疑者は容疑を認めた上で、「びんずるに恨みがあった」という趣旨の供述をしているということです。
そして、木像について「どこかに埋めてやろうと思った」と供述していることが捜査関係者への取材でわかりました。
一方で、恨みを抱いた理由について「びんずるがいると地震や事件が起きる」などと一部、意味の通らない話もしているということです。
警察は売却する目的ではなかったとみていて、事件にいたるいきさつを詳しく調べることにしています。
(4月6日配信のNHK NEWS WEBの記事を引用しています。なお、氏名等は当事務所の判断で伏せています。
【「不法領得の意思」について】
前回に引き続き、長野市であった「びんずる尊者」の窃盗事件について解説していきます。
今回は、窃盗罪における「不法領得の意思」について解説していきます。
判例や通説は、故意の他に条文に明記されていない要件として不法領得の意思が必要であるとしています。
不法領得の意思とは、判例によれば「権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思」であるとされています。
意思内容としては、権利者排除意思と利用処分意思に分けられます。
今回の男の「びんずるに恨みがあった」や「どこかに埋めてやろうと思った」という供述は、権利者を排除しようとする意思は肯定できるとしても利用処分意思が認められるかは慎重に考える必要がありそうです。
窃盗罪が、器物損壊罪より法定刑が重くなっているのは、財物を利用しようとする動機や目的があるほうがより強い非難に値し、また一般予防の見地からも抑止の必要性が高いからと考えられていることにあります。
男が「びんずる尊者」を盗んで転売しようとしていたような場合や、「びんずる尊者」を独占して拝んだりしようとしていた場合には、利用処分意思は認められる可能性は高いといえます。
しかし男が、びんずる尊者へのうらみから埋めてしまおうとしたことが、単なる毀棄、隠匿目的だった場合には、経済的用法に従い利用処分しようとする意思は否定され不法領得の意思は認められない可能性が高いといえるかもしれません。
【窃盗罪に強い弁護士】
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