ATMの置き忘れ現金を盗み取調べ
ATMの置き忘れ現金を盗み取調べ
~ケース~
Aさんは、福岡市南区にある銀行のATMに預金をおろしに行った際、前でATMを操作していた客が、去り際に現金の入った封筒を忘れていくのを見ました。
Aさんは自身の預金を引き下ろしたあと、前の客の封筒も一緒にカバンに入れてしまいました。
封筒には20万円が在中していました。
後日、福岡県南警察署からAさんに電話があり、「お尋ねしたいことがある」とのことです。
Aさんは、きっと置き忘れられていた現金の件だと思い、取調べに行く前に弁護士に相談することにしました。
(フィクションです)
~Aさんに成立する犯罪は?~
Aさんに成立する犯罪としては、①窃盗罪、又は、②占有離脱物横領罪が考えられます。
窃盗罪は、他人の財物を窃取する犯罪であり、法定刑は10年以下の懲役又は50万円以下の罰金です(刑法第235条)。
占有離脱物横領罪とは、遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領する犯罪であり、法定刑は1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料となっています(刑法第254条)。
窃盗罪が成立するには、財物が「他人の占有」下にあり、その占有を移転し、取得することが必要です。
「占有」とは、財物に対する事実的支配を意味します。
他人が携行しているバッグ、他人が住居において保管している物については、当然に「占有」が認められるでしょう。
しかし、今回のケースの現金入り封筒は、Aさんの前の客が置き忘れたものであり、このような物に対しても他人の占有が及んでいるということができるのかどうかが問題となります。
もし、占有が肯定できない場合は、窃盗罪ではなく、占有離脱物横領罪が適用されることになります。
~置き忘れた物の占有に関連する判例の検討~
(占有を肯定した例)
・バス待ちの行列に並んでいた被害者が、近くの台にカメラを置き忘れたまま、行列の移動とともに移動したところ、カメラを置き忘れたことに気付き、引き返したところ、すでにカメラが持ち去られていた事例において、行列が動き始めてから被害者が引き返すまでの時間が約5分、行列から引き返し地点までの距離が約20メートルであった場合(最高裁昭和32年11月8日判決)
・公園のベンチで傍らにポシェットを置いて友人と話していた被害者が、ベンチ上にポシェットを置き忘れてその場を離れ、ベンチから約27メートル進んだ時点において、被告人が当該ポシェットを持ち去り、その後、被害者がベンチを離れて2分、約200メートル進んだ時点でポシェットの忘れ物に気付き、公園まで走って戻ったが既にポシェットが持ち去られていた場合(最高裁平成16年8月25日決定)
(占有が否定された例)
・大規模スーパーマーケットの6階のベンチに札入れを置き忘れたまま、地下1階に移動して約10分後に置き忘れたことに気付き引き返した場合(東京高等裁判所平成3年4月1日判決)
~今回のケースの場合はどうなるか?~
今回のケースにはあえて記載していないのですが、もしAさんの前の客が、ATMから立ち去ってすぐにAさんが持ち去れば、未だ被害者の「占有」が認められる可能性があるといえるでしょう。
反対に、Aさんの前の客が置き忘れてATMを離れ、何分も経過してから、Aさんが持っていったという場合には、前の利用客の「占有」が否定される可能性が高まるでしょう。
なお、前の利用客の「占有」が否定されたとしても、置き忘れられた現金がそのATMの管理者やそのATMのある場所の管理者の「占有」のもとにあると認められる場合もあるため、注意が必要です。
~Aさんは出頭前、どうするべきか?~
弁護士と相談した上で、取調べに臨むことができればベターです。
取調べではプロの捜査官相手に対応をしていかなければなりませんから、何らの助言もないまま取調べに臨むのはなかなか難しいことと思われます。
Aさんが認識した通りに供述できればよいと思いますが、法律の専門家から黙秘権などの権利などについて説明を受けて取調べに臨むことにより、心理的なプレッシャーを軽減させることができるでしょう。
~示談交渉について相談~
警察がATMにおける現金持ち去りの件でAさんを呼び出したとするならば、すでに被害届などの提出を受けて捜査した結果、Aさんが被疑者とした浮上した、ということが考えられます。
弁護士を通じて被害者と示談をすることにより、事件の有利な解決(逮捕されずに済む、逮捕された場合釈放される可能性が高まる、不起訴処分を獲得できる可能性が高まるなど)を目指すことが考えられます。
示談交渉のメリット、具体的に示談交渉はどのようにして行うか、という点について、助言を受けましょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を専門とする法律事務所であり、ケースのような窃盗事件の解決実績も豊富です。
窃盗事件を起こしお困りの方は、是非、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。