【事例解説】窃盗に入った犯人を見逃した事例①
窃盗に入った犯人を見逃した事例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
【事例】
愛知県内に住むAさんは、雑居ビルの夜間警備のアルバイトをしていました。
そうしたところ、夜間の見回り中に、知り合いのBさんがビル内のテナントから金品を盗みだしているところを発見しましたが、知り合いということもあり、その場では見逃すことにしました。
しかし、後日Aさんは気が変わり、「盗んだ金品の一部をよこさなければ、犯行を警察に言うぞ」とBさんを脅し、Bさんが盗んだ金品総額100万のうちの30万円程度に相当する金品を受け取りました。
後日、Bさんは警察により逮捕され、Aさんは事件関係者として警察に呼ばれるに至りました。
そこでAさんは弁護士に今後の対応を相談することにしました。
(フィクションです)
【今回の事例で成立しうる犯罪】
今回の事例で、AさんとBさんにはそれぞれどのような犯罪が成立するでしょうか。
①Bさんに成立する犯罪
Bさんには窃盗罪が成立すると考えられます。
窃盗罪とは、刑法235条(出典/e-GOV法令検索)により「他人の財物を窃取」する罪であると定められており、その法定刑として「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金刑」が定められています。
窃盗罪が成立するには、以下の3点を満たす必要があります。
ⅰ「他人の財物」を
ⅱ「窃取した」こと
ⅲ 窃盗罪の故意及び不法領得の意思を有すること
ⅰ「他人の財物」とは、他人が占有する財物のことをいいます。
占有の有無は、占有の事実と占有の意思の両面から社会通念に従って判断されます。
ⅱ「窃取」とは、他人の占有する財物を、占有者の意思に反して、その占有を侵害し自己または第三者の占有に移転させることをいいます。
ⅲ「窃盗罪の故意及び不法領得の意思を有すること」とは、窃盗行為をする際、窃盗の故意と不法領得の意思という2つの認識・意思を持っていることを意味します。
窃盗の故意とは、他人の財物を窃取することの認識・認容を意味します。
不法領得の意思とは、判例によれば「権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様に、その経済的用法に従いこれを利用し処分する意思」であるとされています。
これらを今回の事例に当てはめると、
ⅰ金品は他人の所有物ですから、当然に「他人の財物」です。(ⅰを充足)
ⅱその金品を勝手に持ち去るということは、所有者の意思に反して金品を自分の物にすることであるため、「窃取」と評価できます。(ⅱを充足)
ⅲBさんは、自らの意思で金品を盗んでいるので、当然ながら、窃盗の故意があると判断されますし、加えて、元の所有者の支配を排除してその金品を自分のものとして使おうという意思もあったといえる可能性が高く「不法領得の意思」があると判断されることになるでしょう。(ⅲを充足)
よって今回の事例では窃盗罪の成立が考えられます。