窃盗と近接所持

2019-06-09

窃盗と近接所持

神戸市長田区に住むAさんは無職でお金に困っていたころから、他人の家に入って貴金属など高価な物を盗み、これをお金に換えようと考えました。
Aさんは、令和元年5月29日午後1時頃、日頃から目を付けていた一人暮らしの高齢者Vさん宅に無施錠の玄関から入りました(Vさんは自宅外で畑仕事をしており不在でした)。
Aさんは仏壇等を物色したところ、宝石のようなものを見つけたのでこれをポケットの中にしまい、玄関から外へ出ました。
そして、乗ってきた車で自宅へ戻りました。
Aさんは、「すぐに売れば脚が付く」と思い、犯行から2日後に質屋へ行き宝石を売ったところ、5万円で売れました。
Aさんは、手に入れたお金はパチンコに使いました。
ところが、後日、Aさんは住居侵入罪窃盗罪の容疑で兵庫県長田警察署に逮捕されました。
Aさんは、取調べの警察官に「知人からもらったもので盗んではいない」「知人の名前は迷惑がかかるから言いたくない」などと話しています。
(フィクションです。)

~ 窃盗事件の特殊性 ~

窃盗事件において、犯人が被害品を窃取したところを目撃する人やその場面を映し出した防犯カメラ映像等の直接証拠があることは稀です。
こうした直接証拠がない窃盗の否認事件では、被疑者・被告人=窃盗犯人であろうことを推認させる「情況証拠」の積み重ねによって被疑者・被告人=窃盗犯人であることが立証されます。
その際、窃盗事件では「近接所持の論理」が用いられることがあります。

~ 近接所持の論理とは ~

近接所持の論理とは、窃盗の被害発生の時点と近接した時点において、盗品を所持していた者については、盗品の入手状況につき合理的な弁明をしない限り、盗品を窃取した者としてもよいとする理論です。
より具体的には、

・盗難の被害と盗品所持ないし処分との間に、時間的・場所的な近接性があるという事実
・盗品の入手経路に関する弁解が不合理ないし虚偽であるという事実
・その他の情況証拠(動機の有無、犯行の機会の有無、技能の有無、現場痕跡等との同一性など)

を総合的に判断して犯人性(被疑者・被告人=窃盗犯人)を認定するという考え方です。
これは、盗難被害発生の直後であれば、

・被害品はいまだ窃盗犯人の手中にあることが多いという経験則
・その時点であれば、窃盗以外の方法でその物品を入手した者は、自己の入手方法について具体的に弁明し、容易にその立証をすることができるはずであるという論利則

を前提としているなどと説明されています。

近接所持の論理は、単に、時間的・場所的近接性だけで犯人性を認定する理論ではありません。
Aさんも、犯行から2日後に質屋に売却した事実に加えて、Aさんがお金に困っていた事実、Vさん方へ入った事実等を裏付ける証拠があったからこそ逮捕されたのかもしれません。

~ 犯人性を否認する場合の弁護活動 ~

「盗んだのは自分ではない」などと窃盗の犯人性を否認する場合は、その入手経緯につき明らかにする必要があるでしょう。
Aさんから「知人からもらった」というのであれば、その知人とは誰なのか、名前は、関係性は、いつ、どこで、どのような意図・経緯でもらったかなどを明らかにする必要があります。
「知人に迷惑をかけるから言いたくない」などと言っていると、「自分で盗んだのだから言えないだけだ」→「もらった、という話は嘘だ」→合理的な弁明ではない、などと判断されるおそれが大きくなります。
弁護士としては、被疑者・被告人の方から、どういう経緯で入手したかなど一刻も早く事実関係を聴取した上で、それに沿った弁護活動をする必要があります。

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