【事例解説】盗まれた腕時計を自力で取り返す(後編)
盗まれた腕時計を自力で取り返した事例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
【事例】
愛知県内に住む大学生のAさんは、銭湯に行った際、入学祝に祖父からもらった特注の腕時計を何者かに盗まれてしまいました。
後日、Aさんは、街中で偶然その腕時計をつけたBさんを見つけ、時計を自力で取り返しました。
そうしたところ、Bさんはその腕時計を中古品販売店から購入しており、Aさんから腕時計を盗んだ窃盗犯人ではありませんでした。
BさんはAさんの事情に同情を示しましたが、中古品販売店での購入額と同等の金銭を支払ってもらえなければ、警察に被害届を出すと伝えました。
Aさんは、今後の対応を検討するため、弁護士に相談することにしました。
(フィクションです。)
【自救行為が認められるか】
そこで、Aさんが行った自救行為(腕時計を取り戻す行為)を正当化できないでしょうか。
この点につき、自救行為について具体的な定めを置く法律は存在しません。
しかし、民法200条(出典/e-GOV法令検索)や刑法242条(出典/e-GOV法令検索)といった法律の存在を根拠とし、原則として自救行為は禁止されていると解されます。
民法第二百条 占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
刑法第二百四十二条 自己の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、この章の罪については、他人の財物とみなす。
ただし、常にこのように解することが正しい結論を導くとは限りません。
そこで、刑法36条1項の定めに準じた緊急性と必要性が認められる場合には、例外的に自救行為が認められると考えられています。
第三十六条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
具体的には、①権利に対して侵害がなされたこと、②被害回復の緊急性があること、③自救の意思があること、④自救行為自体が相当性を具備していることの4点が満たされる必要があります。
この事実認定については、争点となるでしょうから、一概に自救行為の当否を判断することは出来ませんが、自救行為を認めることは、私人の実力行使の常態化を招きかねません。
そのため慎重な判断を要し、場合によっては自救行為が認められず、窃盗罪で事件化する可能性もあるため、弁護士に相談することをおすすめします。
【窃盗事件を起こしてしまったら】
もしも窃盗事件を起こしてしまい、前科を回避したいと考えた場合、被害者との間で示談交渉を進めることが最も重要になります。
そのため被害者との間で、被害弁償及び示談交渉を行い、可能であれば宥恕条項付きの示談締結を目指します。
早期に被害者との示談を成立することができれば、検察官による不起訴処分を受ける可能性を高めうるといえます。
また、起訴され正式裁判となった場合であっても、被害者の方との示談が成立した場合はその事実を裁判所に主張し、これに加えて、被害弁償が済んでいること等を主張して、罰金刑や執行猶予判決の獲得を目指します。
刑事処分の軽減のためには、迅速かつ適切な弁護活動が不可欠ですので、お困りの場合は速やかに刑事事件に強い弁護士にご相談ください。