【事例解説】盗まれた腕時計を自力で取り返す(前編)
盗まれた腕時計を自力で取り返した事例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
【事例】
愛知県内に住む大学生のAさんは、銭湯に行った際、入学祝に祖父からもらった特注の腕時計を何者かに盗まれてしまいました。
後日、Aさんは、街中で偶然その腕時計をつけたBさんを見つけ、時計を自力で取り返しました。
そうしたところ、Bさんはその腕時計を中古品販売店から購入しており、Aさんから腕時計を盗んだ窃盗犯人ではありませんでした。
BさんはAさんの事情に同情を示しましたが、中古品販売店での購入額と同等の金銭を支払ってもらえなければ、警察に被害届を出すと伝えました。
Aさんは、今後の対応を検討するため、弁護士に相談することにしました。
(フィクションです。)
【時計をめぐる権利関係】
まず、前提としてこの腕時計の所有権は誰にあるでしょうか。
この点につき、民法(出典/e-GOV法令検索)は192条で動産の即時取得を定めています。
第百九十二条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
今回の事例では、Bさんは盗品と知らずに、腕時計を購入しましたし、店で売っていた腕時計が盗品であることなど普通は思いもよらないでしょうから特に過失もないと評価できそうです。
そのため、Bさんは民法192条により腕時計の所有権を有するといえるでしょう。
他方、そのように解すると、腕時計を盗まれたAさんにとっては理不尽であるといえます。
そこで民法は193条にて、即時取得された動産が盗品・遺失品であった場合の定めを置いています。
第百九十三条 前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。
そのため、Aさんは窃盗された時から2年以内であれば、Bさんに対して腕時計の返還を求めることができます。
しかし、このように解すると、今度は代金を支払って腕時計を購入したBさんにとっては納得のいかない帰結になってしまいます。
そこで、さらに民法は194条にて、盗品・遺失品の回復に関する代価の弁償について定めています。
第百九十四条 占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。
よって、上記をまとめると、今回の事例では、腕時計の所有権はBさんにあることになります。
その上で、窃盗時から2年以内であれば、Aさんは、Bさんに腕時計を返せと要求できますが、その場合は、Bさんが腕時計を購入した代金をBさんに弁償する必要があります。