【事例解説】盗まれた腕時計を自力で取り返す(中編)

2024-08-30

盗まれた腕時計を自力で取り返した事例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

腕時計 

【事例】

愛知県内に住む大学生のAさんは、銭湯に行った際入学祝に祖父からもらった特注の腕時計を何者かに盗まれてしまいました。
後日、Aさんは、街中で偶然その腕時計をつけたBさんを見つけ時計を自力で取り返しました
そうしたところ、Bさんはその腕時計を中古品販売店から購入しておりAさんから腕時計を盗んだ窃盗犯人ではありませんでした。
BさんはAさんの事情に同情を示しましたが、中古品販売店での購入額と同等の金銭を支払ってもらえなければ警察に被害届を出すと伝えました。
Aさんは、今後の対応を検討するため、弁護士に相談することにしました。
(フィクションです。)

【今回の事例でAさんに成立しうる犯罪】

今回の事例では、Aさんは腕時計をBさんから自力で取り返しています
一見すると、Aさんは盗まれた自分の腕時計を取り戻しただけであるため、何も犯罪が成立しないようにも思えますが、実際には、Aさんには窃盗罪が成立する可能性があります。

窃盗罪とは、刑法235条(出典/e-GOV法令検索)により「他人の財物を窃取」する罪であると定められており、その法定刑として「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金刑」が定められています。

窃盗罪が成立するには、以下の3点を満たす必要があります。
①「他人の財物」を
②「窃取した」こと
窃盗罪の故意及び不法領得の意思を有すること

①「他人の財物」とは、他人が占有する財物のことをいいます。
 占有の有無は、占有の事実占有の意思両面から社会通念に従って判断されます。

②「窃取」とは、他人の占有する財物を、占有者の意思に反して、その占有を侵害し自己または第三者の占有に移転させることをいいます。

③「窃盗罪の故意及び不法領得の意思を有すること」とは、窃盗行為をする際、窃盗の故意不法領得の意思という2つの認識・意思を持っていることを意味します。
 窃盗の故意とは、他人の財物を窃取することを認識・認容を意味します。
 不法領得の意思とは、判例によれば「権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様に、その経済的用法に従いこれを利用し処分する意思」であるとされています。

これらを今回の事例に当てはめると、
①腕時計は元はAさんの所有物でしたが、現在はBさんの占有する物ですから、「他人の財物」です。(①を充足)
②腕時計を勝手に持ち去るということは、持ち主であるBさんの意思に反して腕時計を自分の物にすることであるため、「窃取」と評価できます。(②を充足)
③Aさんは、自らの意思で腕時計を盗んでいるので、当然ながら、窃盗の故意があると判断されますし、加えて、Bさんの支配を排除してその腕時計を自分のものとして使おうという意思もあったといえる可能性が高く「不法領得の意思」があると判断されることになるでしょう。

よって今回の事例では窃盗罪の成立が考えられます

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