知人の高級腕時計をイタズラで隠匿し取調べ
今回は、嫌がらせ目的で知人の高級腕時計を隠匿し、刑事事件化してしまった場合の弁護活動について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説いたします。
~ケース~
Aさんは、知人であるVの自宅で、Vとお酒を楽しんでいましたが、Vにはかねてから含むところがあり、嫌がらせ目的でVの高級腕時計(時価100万円相当)を自宅に持ち帰ってしまいました。
後日、Aさんは●警察から任意で出頭を求められ、Vの時計について心当たりはないか、どこにあるか知っているのではないかと厳しく尋ねられました。
Aさんは素直にV宅から時計を持ち帰ったことを認め、「Vにいたずらをしようと思った。自宅のタンスに時計を隠して以来、自分で時計を使ったり、売却、処分したことはない」と供述しています。
Aさんが逮捕されることはありませんでしたが、警察は「窃盗の疑いで捜査をする。最終的には検察に事件を送り、検事が起訴、不起訴の別を決めることになるだろう」と話しています。
Aさんは思っていた以上に大事となってしまい、不安に感じています(フィクションです)。
~Aさんに成立する犯罪は?~
(Aさんの行為は窃盗罪?)
ケースの場合、他人の腕時計を持主の自宅から持ち出しているという点から、「窃盗罪」(刑法第235条)が成立するように思われます。
判例・通説によると、窃盗罪が成立するためには、①他人の占有する財物を窃取した事実、②①の故意に加えて、③「不法領得の意思」が存在していたことが必要です。
不法領得の意思とは、「権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思」をいいます(大審院大正4年5月21日判決、最高裁昭和26年7月13日判決)。
自転車などを一時的に無断使用した場合においては前者の「権利者排除意思」が、嫌がらせなどの目的で他人の物を毀棄・隠匿した場合においては、後者の「利用・処分の意思」が認められない可能性があります(注1)。
(注1)
一時的無断使用の場合であっても、使用していた時間、乗物であれば乗り回した距離、物の価値などの事情によっては、権利者排除意思が認定される場合があります。
ケースのAさんは確かにV宅から高級腕時計を持ち出していますが、自身で使用することも、売却することも処分することもなく、持ち出して以来、ずっと自宅のタンスに隠匿しています。
このような事実関係においては、不法領得の意思のうち、「利用・処分の意思」が認められない可能性があります。
(窃盗罪が成立しない場合には?)
窃盗罪が成立しないと判断された場合には、被疑事実を「器物損壊罪」(刑法第261条)に切り替えて捜査がなされる可能性が高いと思われます。
器物損壊罪とは、他人の物を損壊し、又は傷害する犯罪です。
「損壊」とは、「物の効用を害する一切の行為」をいいます。
AさんがVの腕時計を自宅のタンスに隠匿したことにより時計としての効用を失わせた、と判断された場合、器物損壊罪に問われる可能性が高いでしょう。
器物損壊罪につき有罪が確定すると、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処せられます。
~今後の弁護活動~
もし、窃盗の嫌疑ではなく、器物損壊の嫌疑による捜査に切り替われば、告訴を阻止、あるいは告訴を取り消してもらうことにより、必ず不起訴処分が獲得できます。
弁護活動の大筋として、①窃盗の嫌疑による捜査が続いているのであれば、不法領得の意思が認められないことを警察、検察に主張すること、②器物損壊の嫌疑に切り替わった場合には、Vによる告訴の阻止、あるいは告訴の取り消しの実現を目指すことが想定されるでしょう。
※刑法
(親告罪)
第二百六十四条 第二百五十九条、第二百六十一条及び前条の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
ただし、告訴をしないように、あるいは、告訴を取り消してもらうようにするためには、AさんがVに対して真摯に謝罪し、生じさせた損害があればこれを賠償する必要があると考えられます。
ケースの被害品は時価100万円相当の高価な腕時計であり、これを勝手に持ち出され、A宅にて隠匿されていたとなれば、Vの怒りは激しいものであることが十分予想されます。
ケースの場合は、早期に弁護士と相談し、今後の弁護活動についてのアドバイスを受けることをおすすめします。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を専門とする法律事務所です。
イタズラ目的で他人の物を隠匿した結果、刑事事件化してしまいお困りの方は、是非、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。