嫌がらせ目的で同僚の手帳を隠匿し取調べ
嫌がらせ目的で同僚の手帳を隠匿し取調べ
大阪府池田市にある会社に勤める会社員のAさんは、かねてから同僚のVさんとの折り合いが悪く、何らかの嫌がらせをしてやろうと企図していました。
ある日、Vさんのデスクの上に、Vさんのスケジュールが記載された手帳を見つけたので、これを紛失したら困るだろうと思い、Aさんは自分のデスクにVさんの手帳を隠匿することにしました。
Vさんはすぐに手帳がなくなったことに気付き慌てましたが、上司に相談し、防犯カメラを確認したところ、上記のAさんの行為が写っていました。
Vさんが大阪府池田警察署に被害届を出したところ、Aさんは警察に呼び出され、出頭することになりました。
(フィクションです)
~手帳を嫌がらせで隠匿…何罪?~
今回のAさんは嫌がらせ目的でVさんの手帳を隠しています。
一見、Vさんの手帳を机上より持ち出していることから「窃盗罪」が成立するのではないか、と思われますが、ケースの事件について窃盗罪が成立する可能性はかなり低いと思われます。
それはなぜなのか、以下で検討していきます。
(不法領得の意思)
判例・通説によると、窃盗罪が成立するためには、①他人の占有する財物を窃取した事実、②①についての故意に加えて、③「不法領得の意思」が存在していたことが必要です。
「不法領得の意思」とは、権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思をいいます。
(他人の財物を「隠匿」する場合)
Aさんは嫌がらせでVの手帳を持ち出したのですから、不法領得の意思の「利用・処分意思」が欠けるように思われます。
「利用・処分意思」がないことを理由として窃盗罪の成立が否定された裁判例として、以下のような事例があります。
・教員が、校長に恨みを持って同人に責任を負わせるために、教育勅語謄本等を教室の天井裏に隠した場合(大審院大正4年5月21日判決)
・政府所有米の米俵の数が足りないつじつまを合わせるために、倉庫にある他の米俵から少しずつ米を抜き取って新たに米俵を作り、同倉庫に積んでおいた場合(最高裁昭和28年4月7日判決)
以上の裁判例に照らすと、AさんがVの手帳を隠匿した行為はVさんへの嫌がらせであって、Vさんのスケジュールを密かに知るなどの他の動機・目的があったわけではない以上、「利用・処分意思」が欠けると評価される可能性が高いでしょう。
~窃盗罪以外に成立しうる犯罪はあるか?~
今回のAさんのケースにおいて、窃盗罪以外の他の犯罪類型で成立する可能性が否定できないものとして、「器物損壊罪」、「私文書毀棄罪」があります。
(器物損壊罪)
器物損壊罪は、他人の物を損壊し、又は傷害する犯罪です。
「損壊」とは、物の効用を害する一切の行為をいいます。
AさんがVさんの手帳を自身のデスクに隠匿することにより、スケジュールの備忘録としての効用を失わせたと判断された場合、器物損壊罪の成立が認められる可能性があります。
器物損壊罪につき、有罪が確定すると、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処せられます。
もっとも、器物損壊罪は被害者による告訴がなければ起訴することができないので、告訴がなされない場合、事件は必ず不起訴処分という形で終了します。
このような「親告罪」の弁護活動においては、被害者に告訴状を出さないよう交渉することが極めて重要です。
(私用文書等毀棄罪)
権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録を毀棄する犯罪であり、法定刑は5年以下の懲役となっております。
スケジュールが記載されているにすぎない手帳は「権利又は義務に関する他人の文書」に該当しないと思われますが、Vさんの手帳の中に、取引先の領収書などが入っていて、Aさんがこれを認識し、あえて隠匿したような場合には、私用文書等毀棄罪の成否が検討されることになるでしょう。
なお、本罪も「親告罪」なので、告訴されなければ、起訴されることはありません。
~取調べに先立ち、弁護士と相談~
Aさんの供述は、「不法領得の意思」の認定に関して重要な証拠となります。
もし、「Vさんよりも有利に仕事をするためにVさんのスケジュールを確認する必要があった」などと供述すると、「不法領得の意思」が認められ、器物損壊罪、私用文書等毀棄罪よりも重い窃盗事件の被疑者として扱われる可能性が高まります。
どのように供述すれば、Aさんにとって不利にならずにすむか、という点について、弁護士のアドバイスを受けましょう。
ケースのような事件を起こしてしまい、お困りの方は、是非、刑事事件・少年事件を専門とする弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。