置引きと窃盗罪

2019-08-23

置引きと窃盗罪

大学生のAさん(20歳)は、埼玉県川口市に設置してあるATM機でお金を引き出そうとしたところ、ATM機横に財布が置かれてあるのを見つけました。
Aさんはそれを手に取って中身を見ると、財布の中には1万円札1枚が入っているのを確認しました。
Aさんは、普段お金に足りないことに不満を抱いていたことから、「自分のものにしてしまえ」と思って財布の中から1万円札を抜き取りました。
その後、ATM機の上に財布を置き忘れたことに気づいたVさんが、その約5分後ATM機の元へ戻ってきました。
Vさんは、財布は無事手に戻すことができたものの、1万円札を抜き取られたことに気づいたことから警察に通報、被害届を提出しました。そうしたところ、Aさんは窃盗罪埼玉県川口警察署に逮捕されてしまいました。
(フィクションです。)

~置引き~

置引きとは、置いてある他人の財物を持ち去る行為をいいます。
置引きは、刑法などの法令に規定されている罪名ではなく、「ひったくり」や「万引き」と同様、窃盗罪の態様として慣用的に使われている言葉の一種です。
なお、平成30年度版犯罪白書によれば、平成29年度に警察に認知された窃盗罪の事件数中、非侵入窃盗の割合は全体の53.9%(侵入窃盗は11.2%、乗り物窃盗は31.3%)で、そのうち

・万引き      16.5%
・車上・部品狙い  12.5%
・置引き       4.7%
・色情狙い      1.4%
・自動販売機狙い   1.3%

だったとのことで、窃盗事件全体の数は年々減少傾向にあり、かつ、置引きの割合自体は少ないものの、被侵入窃盗の中では「上位3番目」の数の多さということは着目すべき点ではないかと思います。

~置引きは何罪?~

置引きは窃盗罪(刑法235条)あるいは占有離脱物横領罪(刑法254条)に当たる可能性があります。
まず、規定から確認しましょう。

刑法235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

刑法254条
遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。

窃盗罪は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」、占有離脱物横領罪は「1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料」と両罪は法定刑に大きな違いがありますから、窃盗罪が成立するか占有離脱物横領罪が成立するかは大きな違いで、区別する実益があります。

~窃盗罪と占有離脱物横領罪の違いは?~

窃盗罪と占有離脱物横領罪を区別する基準は、「被害者の財物に対する支配が及んでいるか否か」という点です。
及んでいる場合は窃盗罪、及んでいない場合は占有離脱物横領罪が成立します。
そして、支配が及んでいるか否かは

・財物自体の特性(貴重品か否か、大きさ、重さなど)
・占有者の支配の意思の強弱
・被害者が財物を取り戻すに行くまでの時間、距離

などの具体的事情から判断されます。

過去には(最判昭和32年11月8日)では、「バスに乗るために行列していた者が、カメラをその場に置き、行列の移動に連れて改札口近くに進んだ後、カメラを忘れたことに気づいたが、その間、時間にして約5分、距離にして約19.58メートルに過ぎなかった事例」で、「被害者に支配が及んでいる」とし、カメラを盗んだ犯人に窃盗罪を適用しています。

~被害者の支配が及んでいなくても窃盗罪?~

なお、被害者の支払が及んでいなくても別の者の支配が及んでいると認められる場合は、やはり窃盗罪が適用される可能性があります。
過去には(大判大8年4月4日)、「旅館内に旅客が置き忘れた財布」には旅館主の支配が及んでいるとして、財布を盗んだ犯人に窃盗罪を適用しています。
ただし、財物を置き忘れた場所が、一般人の立ち入りが自由な場所であって、管理者の排他的支配が完全でない場合(たとえば、電車内、電車・駅構内のトイレ内など)は、直ちにその場所の管理者の支配に移ることはないとされています。

~本件置引きは何罪?~

本件では、VさんがATM機に財布を置き忘れたことに気づき約5分後に取りに戻ったというのですから、Vさんの財布及びその中の財物(お金など)に対する支配は認められるものと思います。
したがって、Aさんには窃盗罪が適用され、処罰される可能性が高いでしょう。
窃盗罪での処分を免れたい場合は、被害者に被害弁償し、示談を成立させることが先決です。

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