10年前の万引き前科と執行猶予

2020-02-19

10年前の万引き前科と執行猶予

万引きの前科がある人が、再び万引きで逮捕された場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

【事例】
大阪府貝塚市に住むAさんは、同市内のスーパーで商品数点を万引きしたとして大阪府貝塚警察署窃盗罪逮捕されました。
Aさんは罪を認めていますが、実は10年前にも同じ万引きで逮捕されて罰金刑となったた前科を有しており、実刑判決だけは避けたいと考えています。
Aさんは接見に来た弁護士に執行猶予を獲得できるか尋ねました。
(フィクションです。)

~ 執行猶予とは ~

執行猶予とは刑の執行を猶予されることです。
刑の執行を猶予されただけですから,無実・無罪となった,許されたということではありません。
執行猶予は,あくまであなたが有罪であることを前提に,社会内での更生を期待して刑の執行を一時的に猶予しているにすぎないのです。

執行猶予にしてもらえる条件は刑法に書かれていますので見てみましょう。

刑法25条 
 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 (略)

では、Aさんが執行猶予を獲得できるのか具体的にみていきます。
まず、Aさんは10年前に同じ万引きで逮捕されていますが、「禁錮以上の刑」すなわち懲役刑禁錮刑にはなっていません。
したがって、Aさんは「一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」に当たります。
なお、「禁錮」とは、懲役に近いものですが、刑務所の中で刑務作業をするかしないかは自由とされている刑罰のことです。

次に、Aさんは今回の万引きについての刑事裁判で、「三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡し」を受けることが必要です。

この範囲内での判決を受けるためには、裁判で有利な「情状」を主張していくことが必要となります。
反省態度を示すのはもちろん、被害店舗に弁償して示談を締結したり、万引きをやめられないクレプトマニアの状態なのであれば専門の病院で治療を受け始めるなどの対応が重要です。

その結果、「三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金」の範囲に収まったのであれば、執行猶予を付けることが可能となります。

もちろん、法律上は執行猶予を付けることが可能であっても、必ずしも執行猶予が付くとは限りません。
特に、犯罪を繰り返すと、だんだんと重い判決になっていくので、執行猶予が付く可能性が下がってきます。

Aさんがもし前回すでに執行猶予となっていれば、今回こそ実刑判決になる可能性も上がります。
しかし前回が罰金刑(懲役刑の執行猶予よりも軽いとされている)に収まっているのであれば、今回は執行猶予にとどまる可能性が十分考えられます。
余罪の有無や被害金額示談が締結できたかなどにもよりますが、前科が10年も前のものであることを考えると、今回も罰金刑で済む可能性もあります。

~ 執行猶予の取消しに注意 ~

執行猶予付き判決を受けたとしても注意点があります。

上記のとおり、執行猶予は刑の執行を一時的に猶予したにすぎません。
よって,何らかの事由により執行猶予が取消された場合は刑に服しなければなりません。
刑法は、26条で①必要的取消し(必ず取消される)事由を,26条の2で②裁量的取消し(取り消される場合がある)事由を定めています。

①の例を挙げると,執行猶予期間中にさらに罪を犯し,その罪につき禁錮以上の実刑に処せられた場合(刑法26条1号)です。
この場合,新たに実刑に処せられた刑(例えば,懲役1年)と執行猶予が付いた刑(例えば,懲役8月)とを併せて服役(懲役1年8月)しなければならなくなります!

②の例を挙げると,執行猶予期間中に罪を犯し,罰金に処せられた場合(刑法26条の2第1号),保護観察の遵守事項を遵守せず,情状が重いとき(刑法26条の2第2号)などがあります。

執行猶予というと,とかくメリットの方を強調されがちですが,執行猶予はあくまで社会内更生を図るための制度であり,取消されることがあるということも頭に入れておくべきでしょう。

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