窃盗罪で逮捕・被害者は誰?

2020-02-24

窃盗罪で逮捕・被害者は誰?

窃盗罪逮捕されてしまった事案に関する占有の所在について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説いたします。

【事例】
Vは兵庫県西宮市内のホテルに宿泊していたが,チェックアウト直前に共用トイレの個室に財布を置き忘れたまま,ホテルを出た。
同ホテルに宿泊していたAは,たまたま同トイレを使った際に財布が置き忘れてあることに気が付き,周りに誰もいなかったことから財布を自らのポケットに入れ,その後ホテルをチェックアウトした。
Aは,翌日になり財布を無くしたことに気が付き,ホテルに連絡したが財布は見つからなかった。
ホテルからの通報を受け,捜査を行った兵庫県西宮警察署の警察官は,Aを窃盗罪の疑いで逮捕した。
Aの家族は,刑事事件に詳しい弁護士に相談することにした(本件は事実をもとにしたフィクションです。)。

~窃盗罪とその被害者1(所有者Vとの関係)~

まず,本件では財布の所有者であるVを被害者とする窃盗罪が成立するかが問題となります。
Vは財布の所有者なのだから、当然Vを被害者とする窃盗罪が成立しそうですが、実はそうとは限らないのです。

刑法は235条は「他人の財物を窃取した」場合に窃盗罪とすることを定めています。
したがって,本件ではAがVの財布を「窃取」したといえるかがポイントになります。

この「窃取」とは,被害者の占有する物を,被害者の意思に反して加害者または第三者に移転させることをいうと解されています。
つまり,「窃取」行為の被害者とは,物の「占有」が認められる者のことをいうのです。

では本件では,Vの所有する財布を,Vが占有しているといえるのでしょうか。
占有とは,物に対する事実的支配のことをいい,この事実的支配は,占有の事実と占有の意思から判断されるというのが判例・実務の確立した見解です。
この占有の有無は,加害者たるAが財布をポケットに入れた時点において判断されることになります。

では,Vに財布の占有が認められるのか検討してみましょう。

Vは,Aが財布を自らのものとしようとしてポケットに入れた時点でホテルを出ており,占有の事実はもはやかなり弱くなっていると考えられます。
また,Vは意識的に財布をホテルのトイレで保管しようなどと考えていたわけはなく、完全にトイレに置き忘れてしまったのですから,財布に対する占有の意思も弱いものであったといえます。

したがって,Aが財布をポケットに入れた時点で,Vの財布に対する占有は認められず,Aの行為は「窃取」には該当しないことになりそうです。

~窃盗罪とその被害者2(ホテルとの関係)~

もっとも,Aの行為が窃盗罪に問われないのかというと,これにもまた別の検討が必要になることに注意が必要です。

それは上記のように財布にVの占有が認められないとしても,ホテル(の管理人)の占有が認められる可能性があるからです。
もしも,Vからホテル側に占有が移転していたと評価できるならば,Aの行為はホテル側の占有を侵害したものとして,刑法235条にいう「窃取」行為に当たる可能性があるといえます。

ホテル側の占有が認められるか否かに関しては,ホテル内のトイレをホテルがほぼ単独で支配しているといえるか(=排他的支配が及んでいるか)が重要です。
仮に,当該ホテルが大ホテルであり,客室・利用客も多く,共用トイレを使用する利用客等が多い場合には,不特定多数人が出入りできる場所としてホテルの排他的支配は及ばず,そのトイレの中にある財布もホテル側の占有が認められない可能性もあります。

しかし,ホテルでは一般に客室内のトイレを使う者が多いと考えられますし,またホテルの利用客や従業員以外の者が共用トイレを使うとは考えにくいことから,ホテルの排他的支配が及んでいると評価することも十分に可能であると考えられます。

したがって,Aの行為は,Vではなくホテル(の管理人)の占有を侵害するものとして窃盗罪が成立するものと考えられます。

~弁護士にご相談を~

このように,窃盗罪が成立するか否かは微妙なケースも多く,事件を解決するにあたっては専門性を有する弁護士の知識・経験が不可欠といえます。
ぜひ、刑事事件に詳しい弁護士にご相談いただければと思います。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,窃盗事件を含む刑事事件専門の法律事務所です。
釈放や軽い処分・判決に向けた弁護活動をしっかり行ってまいります。

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