窃盗事件と再度の執行猶予

2020-05-28

窃盗事件再度の執行猶予について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~

大阪府大阪市城東区のコンビニで万引きしたとして、Aさんは大阪府城東警察署に逮捕されました。
Aさんは、2年前にも万引きで逮捕されており、懲役1年執行猶予3年の判決が言い渡されていました。
執行猶予期間中の再犯のため、Aさんの家族は今度こそは実刑判決が言い渡されるのではないかと心配しています。
Aさんは、神経性過食症や窃盗症の疑いがあり、Aさんの家族は治療にも専念させてやりたいと思い、刑事事件に強い弁護士に相談することにしました。
(フィクションです)

執行猶予について

「執行猶予」とは、裁判で有罪が言い渡された場合、一定の要件のもとに様々な情状を考慮し、その刑の執行を一定期間猶予し、その猶予期間中何事もなく無事に経過すれば、刑の言渡しの効力を失わせるという制度のことです。
有罪となっても、実際に刑罰を受けることはないため、執行猶予が付いているのと付いていないのとでは、裁判後の生活は全く異なります。

執行猶予には、全部執行猶予と一部執行猶予とがありますが、今回は前者について説明します。

◇執行猶予の要件◇

執行猶予については、刑法第25条に規定されています。

第二十五条 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

執行猶予の要件は、
(1)①前に禁固以上の刑に処せられたことがない者、あるいは、
   ②前に禁固以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁固以上の刑に処させらことがない者、であり、
(2)3年以下の懲役・禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しをする場合で、
(3)執行猶予を相当とするにたりる情状があること
です。

(1)の「前に禁固以上の刑に処せられた」とは、これまでに死刑・懲役・禁錮の刑に処する確定判決を受けたことを意味します。
罰金・拘留・科料の前科が何回あっても関係ありません。
(2)の要件について、拘留・科料を言い渡す場合には、その執行を猶予することはできません。
そして、(3)の情状に関しては、犯行方法や犯行態様が悪質ではないこと、犯罪の結果が軽微であること、動機に酌むべき事情があること、被告人に反省が見られること、被害者への被害弁償が済んでいること又は被害者の許しを得ていること、などが量刑の際に考慮される要素です。

万引き事件の場合、初犯であれば微罪処分となることが多いですが、2回目は起訴猶予、3回目は罰金刑と、再犯を重ねるたびに、当然その処分も重くなります。
ですので、万引き事件で正式裁判となるということは、それ以前に同種の前科前歴があるというケースが大半だと言えるでしょう。
犯行態様や被害額にもよりますが、概ね、万引き事件で始めて正式裁判となった場合、執行猶予付き判決が言い渡されることが予想されます。
この場合、判決言い渡し後、すぐに刑務所に入ることはなく、普段の生活に戻ることができます。

しかし、残念ながら、再び万引きで捕まってしまうケースが少なくありません。
それも執行猶予期間中の犯行であることも多く、その場合、実刑の可能性も高くなります。

再度の執行猶予とは

執行猶予期間中に何らかの罪を犯してしまった場合でも、裁判で再び執行猶予付き判決が言い渡される可能性はあります。
これを「再度の執行猶予」といいます。

再度の執行猶予の要件は、次の通りです。

①前に禁固以上の刑に処せられ、その執行の猶予中であること。

②1年以下の懲役または禁錮の言渡しをする場合であること。

③情状が特に酌量すべきものであること。

②の要件について、初度の場合と異なり、罰金の言渡しを受けたときは執行を猶予することはできません。
更に、「1年以下」の懲役・禁錮の言渡しに限定されており、なかなか厳しい要件となっています。
また、③の要件については、情状が「特に酌量すべき」ものとなっています。
犯行態様が悪質ではなく、被害も軽く、被告人の再犯防止に向けた努力が顕著であるなどといったこと等が考慮されます。
これについても、そう安易に満たすことができる要件ではありません。

しかし、万引き事件においては、精神障害が犯行の要因だと認められる場合、被告人の更生のためには刑罰よりも治療が優先されるべきとして、再度の執行猶予が言い渡された事例も少なくありません。
万引きを繰り返す方には、窃盗症や摂食障害を患っているケースもあり、そのような精神障害が万引きの再犯に大きく影響していることもあります。
精神障害が疑われる場合には、専門医の診察を受け、適切な治療を受けることが再発防止のために必要となります。
裁判でも、診断書や治療経過報告書などといった資料と共に、本人が再発防止に向けて真摯に治療に取り組んでいることを主張していくことになります。

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