窃盗と不法領得の意思
窃盗と不法領得の意思について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
神奈川県秦野市に住む知人男性の自宅に侵入し、スマートフォンなど5点を盗んだとして、神奈川県秦野警察署は、市内に住むAさんを逮捕しました。
Aさんは、盗品をインターネット上に出品しており、これを見た被害男性が盗まれた物かもしれないと思い警察に通報したことにより事件が発覚しました。
Aさんは、「嫌がらせ目的で盗んだ。その後、1か月ほど家に置いておいたが、処分に困ってネットで売ろうとした。」と供述しています。
逮捕の連絡を受けたAさんの妻は、すぐに接見に行ってくれる弁護士を探しています。
(フィクションです)
窃盗が成立する場合とは
刑法は、その235条で窃盗罪について、次のように規定しています。
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
窃盗罪の構成要件(犯罪が成立するための原則的要件)は、
①他人の財物を
②不法領得の意思をもって
③窃取したこと
です。
◇客体:他人の財物◇
他人の占有する他人の財物が、窃盗罪の客体となります。
「財物」には、有体物や、有体物でなくとも、電気といった物理的に管理可能なものも含まれます。
「占有」とは、人が財産を事実上支配し、管理する状態をいいます。
◇行為:窃取◇
窃盗罪の行為は、「窃取」です。
「窃取」は、占有者の意思に反して財物に対する占有者の占有を排除し、目的物を自己または第三者の占有に移すことを意味します。(大判大4・3・18)
この点、他人の飼養する鳥をかごから逃がす行為は、鳥に対する他人の占有を侵害してはいるものの、自己又は第三者の占有に移転していないことから、器物損害には該当するものの窃盗には該当ないことになります。
◇結果◇
財物の他人の占有を排除して、自己又は第三者の占有に移したことで、占有取得し、窃盗は既遂(犯罪が完成した)となります。
◇主観的要件:故意と不法領得の意思◇
窃盗罪の故意は、①財物が他人の占有に属していること、および、②その占有を排除して財物を自己または第三者の占有に移すことを認識・認容していることです。
故意は、次の「不法領得の意思」とは別の要件です。
目的物を遺失物と誤認していた場合には、窃盗の故意を書き、遺失物横領の限度でしか認められません。(東京高判昭35・7・15)
また、目的物を自己の所有物と誤認していたが、他人が占有していることを認識・認容していれば、窃盗の故意は認められます。
「不法領得の意思」は、条文にはありませんが、判例上認められる要件です。
不法領得の意思とは、「権利者を排除し、他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従い、これを利用し又は処分する意思」です。(最判昭26・7・13)
この不法領得の意思は、窃盗と一時使用行為や毀棄隠匿とを区別する上で重要です。
他人の所有する物を勝手に持ち去る行為は、窃盗の「窃取」に該当する他、持ち去って物を使用できなくさせている点で、事実上、その効用を害していることから、器物損壊の「損壊」にも該当することになります。
そこで、他人の所有する物を勝手に持ち去った場合に、窃盗と器物損壊のいずれが成立するかが問題となります。
この点、窃盗と器物損壊とを区別する要素となるのが、不法領得の意思です。
不法領得の意思は、「権利者を排除し、他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従い、これを利用し又は処分する意思」ですので、持ち去った物を経済的用法に従って利用、処分する意思があるか否かが、窃盗と器物損壊いずれが成立するのかを検討する上で重要となります。
経済的用法に従って利用・処分する意思は、経済的に利益を受ける意思や、その物の用途にかなった使用をする意思、財物から生じる何らかの効用を受ける意思を含みます。
Aさんのように「嫌がらせ目的」で他人の財物を持ち去った場合、行為時には当該財物を経済的用法に従って利用、処分する意思を欠いているため、不法領得の意思が認められないように思われます。
しかしながら、Aさんは、一定期間持ち去った他人の物を自宅に保管していましたが、その後、ネットで販売しています。
つまり、犯行時には、不法領得の意思がなかったものの、その後にその意思が生じ処分行為に及んだ場合には、窃盗が成立するのか、という問題が生じます。
理論上、犯行時には「嫌がらせ目的」であったのであれば、不法領得の意思が認められず、窃盗罪は成立しない、ということになります。
ただし、持ち去った物の本来の効用を害することにはなりますので、器物損壊罪は成立することになります。
また、持ち去った他人の財物を処分しているため、占有の離れた他人の物を横領したと言え、遺失物等横領罪も成立すると考えられます。
しかしながら、上の事例について、理論上は行為時に不法領得の意思が認められず、窃盗罪が成立しないことになりますが、単に「嫌がらせのつもりでとりました。」と言うだけでは、認めてもらえないこともあります。
捜査機関は、取調べにおいて、「どうゆうつもりでとったの?」と繰り返し聞いてくるでしょう。
窃盗罪の成立を争いたいとお考えであれば、早期に刑事事件に強い弁護士に相談されるのがよいでしょう。
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