窃盗と遺失物等横領

2020-10-15

窃盗遺失物等横領の違いについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~

千葉県富津市のX銀行に立ち寄ったAさんは、ATMで現金を下ろすため列に並んで待っていました。
Aさんは、目の前のATMが空いたため、そのATMで現金引き出しの操作を始めたところ、銀行の封筒が操作画面の横に置いてあるのに気が付きました。
現金を引き出した後、その封筒を手に取り、そのまま銀行を後にしました。
後日、千葉県富津警察署がAさん宅を訪れ、X銀行のATMで現金を持ち去った件で話が聞きたいと言われたため、Aさんは非常に驚きました。
幸い、Aさんは逮捕されることはありませんでしたが、警察から後数回取調べで出頭するようにと言われており、不安になったAさんは刑事事件に強い弁護士による法律相談を予約することにしました。
(フィクションです)

椅子や机に置き忘れられた他人の財布や携帯電話、ATMに置きっぱなしになっている現金入りの封筒など、誰かの忘れ物を勝手に自分のものにしてしまう行為は、犯罪に当たる可能性があります。
この場合に成立し得る犯罪とは、窃盗罪もしくは遺失物等横領罪です。

1.窃盗罪

窃盗罪とは、他人の財物を窃取した場合に成立する罪です。

◇犯行の対象◇

窃盗罪の犯行の対象(客体)は、他人の財物、つまり、他人の占有する財物です。

財物には、有体物でなくても、電気のような物理的に管理可能なものも含まれます。

窃盗罪における占有とは、人が物を実力的に支配する関係のことを意味し、物を握持することが典型的な例ですが、物に対する「事実上の支配」があれば、窃盗罪における占有が認められます。
「事実上の支配」とは、物を客観的に支配している場合だけでなく、物の支配を取り戻そうと思えばいつでも取り戻せる状態をも含みます。
「物の支配を取り戻そうと思えばいつでも取り戻せる状態」については、支配の事実や占有の意思の観点からその有無が判断されます。

◇行為◇

窃盗罪の行為は、窃取であり、財物の占有者の意思に反して、その占有を侵害し、目的物を自己または第三者の占有に移すことです。

◇結果◇

窃取の結果、当該財物の他人の占有を排除して、自己または第三者の占有に移したことが必要となります。

◇不法領得の意思◇

条文にはありませんが、判例上認められた要件に「不法領得の意思」があります。
不法領得の意思とは、権利者を排除し、他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従って利用・処分する意思のことであり、「権利者を排除する意思」および「他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従い、これを利用しまたは処分する意思」2つの要件を満たすことが必要です。

◇故意◇

窃盗罪の故意は、他人の財物を窃取することの認識・認容をいいます。
つまり、財物の占有者の意思に反して、その占有を侵害し、自己または第三者の占有に移すことについての認識・認容です。
これは、不法領得の意思とは別の要件です。

2.遺失物等横領罪

遺失物等横領罪とは、遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した場合に成立する罪です。

◇犯行の対象◇

遺失物等横領罪の犯行の対象は、遺失物・漂流物などの他人の占有を離れた他人の財物です。
遺失物とは、占有者の意思に基づかずに占有を離れ、いまだ誰の占有にも属していないものをいいます。
漂流物とは、占有者の意思に基づかずに占有を離れ、いまだ誰の占有にも属しないもので、水面・水中に存在するものをいいます。

◇行為◇

遺失物等横領罪の行為は、横領です。
横領とは、不法領得の意思をもって、占有を離れた他人のものを自己の事実上の支配内におくことをいいます。

◇結果◇

遺失物等横領罪の結果は、窃盗と同じく、占有の取得です。

◇不法領得の意思◇

遺失物等横領罪についても、不法領得の意思があることが求められます。

◇故意◇

遺失物等横領罪の故意は、占有を離れた他人の物を横領することの認識・認容です。

窃盗と遺失物等横領罪の違い

窃盗遺失物等横領を区別するポイントは、客体が「他人の占有する財物」であるか、それとも「他人の占有を離れた他人の財物」であるか、です。

例えば、事例に関して言えば、AさんがATMに置いてあった封筒に入った現金を持ち去ったときに、その現金が「他人の占有する財物」と言えるのか、もしくは「他人の占有を離れた他人の財物」と言えるのかどうかが問題となります。

先述しましたが、他人の「占有」には、物に対する「事実上の支配」も含まれます。
「事実上の支配」には、持ち主が物を客観的に支配している状態だけではなく、持ち主が物の支配を取り戻そうと思えばいつでも取り戻せる状態も含まれます。
持ち主が物の支配を取り戻そうと思えばいつでも取り戻せる状態に該当するか否かは、持ち主の物に対する「支配の事実」や「占有の意思」の観点から判断されます。
支配の事実については、持ち主が財物を置き忘れてから気が付くまでの時間的・場所的接近性といった要素が考慮されます。
また、占有の意思に関しては、持ち主が物を占有していた場所についてどの程度認識していたかといったことが検討されます。

置き忘れた現金の持ち主が、すぐに気が付き、銀行に戻ってきた場合などは、現金に対して持ち主の占有が認められるでしょう。
しかしながら、銀行内のATMの場合、ATMは当該銀行の管理下にあるため、置き忘れた現金についても銀行の占有が及ぶものと考えられます。
そのため、ATMに置き忘れられた現金は、銀行の占有する財物となり、この場合も窃盗が成立するものと考えられます。

状況により窃盗が成立する場合や、遺失物等横領罪が成立する場合とがありますので、一度刑事事件に詳しい弁護士に相談されるのがよいでしょう。

Aさんのように、身体拘束されずに捜査が進められる場合には、捜査段階では国選弁護人を付けることはできません。
逮捕されていないからといって事を甘く見ていると、いつの間にか起訴されてしまった!なんてことも十分にあり得ます。
逮捕されていない場合でも、早期に被害者との示談を成立させたり、取調べにしっかりと対応することは、最終的な処分にも大きく影響するため重要です。

窃盗事件で被疑者として取調べを受けてお困り方は、刑事事件に強い弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に一度ご相談ください。
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