【事例解説】医師が腕時計を盗みトラブルに
医師が腕時計を盗んだ事例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
【事例】
愛知県内の病院に医師として勤めるAさんは、大学時代からの友人であるVさん宅を訪れた際、Vさんが趣味で集めている腕時計のコレクションを目にしました。
そうしたところ、Aさんはそのコレクションに、以前から欲しいと思っていた腕時計があることに気づきました。
そこで、AさんはVさんの目を盗んでその腕時計を盗みました。
後日、Vさんから問い詰められたAさんは、腕時計を盗んだことをVさんに明かし、腕時計を返却しました。
しかし、Vさんに「警察に相談することも考える」と伝えられたため、不安になったAさんは弁護士に今後の対応を相談することにしました。
(フィクションです)
【窃盗罪とは】
窃盗罪とは、刑法235条(出典/e-GOV法令検索)により「他人の財物を窃取」する罪であると定められており、その法定刑として「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金刑」が定められています。
窃盗罪が成立するには、以下の3点を満たす必要があります。
①「他人の財物」を
②「窃取した」こと
③窃盗罪の故意及び不法領得の意思を有すること
①「他人の財物」とは、他人が占有する財物のことをいいます。
占有の有無は、占有の事実と占有の意思の両面から社会通念に従って判断されます。
②「窃取」とは、他人の占有する財物を、占有者の意思に反して、その占有を侵害し自己または第三者の占有に移転させることをいいます。
③「窃盗罪の故意及び不法領得の意思を有すること」とは、窃盗行為をする際、窃盗の故意と不法領得の意思という2つの認識・意思を持っていることを意味します。
窃盗の故意とは、他人の財物を窃取することを認識・認容を意味します。
不法領得の意思とは、判例によれば「権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様に、その経済的用法に従いこれを利用し処分する意思」であるとされています。
これらを今回の事例に当てはめると、
①腕時計はVさんの所有物ですから、当然に「他人の財物」です。(①を充足)
②その腕時計を勝手に持ち去るということは、持ち主であるVさんの意思に反して腕時計を自分の物にすることであるため、「窃取」と評価できます。(②を充足)
③Aさんは、自らの意思で腕時計を盗んでいるので、当然ながら、窃盗の故意があると判断されますし、加えて、Vさんの支配を排除してその腕時計を自分のものとして使おうという意思もあったといえる可能性が高く「不法領得の意思」があると判断されることになるでしょう。
よって今回の事例では窃盗罪の成立が考えられます。
【医師免許を持つ者に前科が付いてしまうと】
医師免許等について定める医師法の第7条1項3号および第4条3号は、「罰金以上の刑に処せられた者」について、厚生労働大臣が医師免許の取消しをすることができる旨を定めています。
これは「することができる」と定められていることから、罰金以上の前科が付いた場合でも、医師免許の取消しがなされない可能性もあります。
しかし、医師免許を失う可能性も否定できないため、できる限りの予防策を講ずるべきであるといえます。
【窃盗事件を起こしてしまったら】
もしも窃盗事件を起こしてしまい、前科を回避したいと考えた場合、被害者との間で示談交渉を進めることが最も重要になります。
そのため被害者との間で、被害弁償及び示談交渉を行い、可能であれば宥恕条項付きの示談締結を目指します。早期に被害者との示談を成立することができれば、検察官による不起訴処分を受ける可能性を高めうるといえます。