営業秘密の書かれた書類を持ち出したら

2019-11-11

営業秘密の書かれた書類を持ち出したら

営業秘密の書かれた書類の持ち出し事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~ケース~
Aさんは、さいたま市大宮区にある、食品Xを主力商品とする食品販売会社Bに、営業部の社員として勤務している。
食品Xは、そのレシピが公開されておらず、レシピが書かれた書類は商品開発部において管理されていた。
Aさんは、B社の競業他社に勤める友人のCさんから「食品Xのレシピの書かれた書類を持ってきてくれたら300万円を渡す」といわれた。
Aさんは、食品Xのレシピが書かれた書類を管理する業務に従事していなかったが、近いうちにB社を退職しようと考えていたことから、Cさんの要求に応じることにした。
Aさんは終業後の深夜に、食品Xのレシピが書かれた書類が保管されている商品開発部内の部屋に侵入し、同レシピを自らのカバンの中に入れて持ち去った。
その後、Aさんは、持ち去ったレシピをCさんに渡し、報酬として300万円を受け取った。
後日、B社から被害の申告を受けた埼玉県大宮警察署は、捜査の末Aさんを逮捕した。
(上記の事例はフィクションです)

今回のAさんは営業秘密の書かれた書類を持ち出し逮捕されていますが、これはいったいどういう犯罪になり得る行為なのでしょうか。
以下で検討していきましょう。

~業務上横領罪~

(業務上横領)
刑法第253条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する。

Aさんは、食品販売会社Bに営業部の社員にもかかわらず、B社の競業他社に勤めるCさんに対し、B社の営業秘密である食品Xのレシピを渡していることから、業務上横領罪の成立が考えられます。

業務上横領罪における「業務上」とは、社会生活上の地位に基づいて反復継続して行う業務のうち他人の物を保管することを内容とするものをいいます。
具体的に業務上横領罪が成立する例としては、会社から保管を命じられていたお金を社員が使い込んだ場合などが挙げられます。

上記の事例において、Aさんは食品Xを主力商品とするB社に勤務していますが、AさんはあくまでB社の営業部の社員であり、食品Xのレシピが書かれた書類は商品開発部において管理されています。
そのため、食品XのレシピについてAさんはB社から保管を命じられる立場にある訳ではなく、Aさんは食品Xのレシピの書かれた書類を「業務上」保管していたと評価することはできません。

また、業務上横領罪における「自己の占有」については、被害者との委託信任関係に基づく事実上又は法律上の占有をいうと考えられています。
上記の通りAさんはB社から食品Xのレシピの保管を命じられる立場に無かった以上、Aさんは、同レシピをB社との委託信任関係に基づいて占有していたとはいえず、同レシピについての「自己の占有」は認められません。
したがって、Aさんの上記行為について単純横領罪(刑法252条1項、法定刑は5年以下の懲役)が成立することもないといえます。

~窃盗罪~

(窃盗)
刑法第235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

上記の通り、Aさんには食品Xのレシピの書かれた書類についての占有が認められないことから、Aさんが同レシピを持ち去った行為について窃盗罪の成立が考えられます。

食品XがB社の主力商品であり、そのレシピが他社に公開されていないことを踏まえると、食品Xのレシピの書かれた書類は財産的価値を有する書類であるといえ、「他人の財物」にあたります。
窃盗罪における「窃取」とは、占有者の意思に反して、自己又は第三者に財物の占有を移転させることをいいます。

上記の事例において、食品Xのレシピの書かれた書類を占有しているのは、B社の商品開発部の社員又はB社自身ということになります。
Aさんが同レシピを持ち去った行為は、商品開発部やB社の意思に反して、同レシピの占有を自己に移す行為といえることから「窃取」にあたります。

よって、上記事例におけるAさんの行為については、窃盗罪が成立することになるといえます。

~不正競争防止法違反の罪~

不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、詐欺等行為(人を欺き、人に暴行を加え、又は人を脅迫する行為をいう。次号において同じ。)又は管理侵害行為(財物の窃取、施設への侵入、不正アクセス行為(不正アクセス行為の禁止等に関する法律(平成11年法律第128号)第2条第4項に規定する不正アクセス行為をいう。)その他の営業秘密保有者の管理を害する行為をいう。次号において同じ。)により、営業秘密を取得した者」は不正競争防止法21条1項1号違反となり、10年以下の懲役または200万円以下の罰金、またはその両方が科されます。

食品XのレシピはBの主力商品でレシピも公開されていないことから「営業秘密」にあたるといえます。
AさんはCさんに報酬300万円を提示して食品Xのレシピを要求してきたCさんに渡す目的で食品Xのレシピが書かれた書類を持ち去っていますから、不正の利益を得る目的で管理侵害行為により営業秘密を取得したといえます。
よって、Aさんには不正競争防止法違反も成立することになりそうです。

会社の秘密のレシピを売って報酬を得るという点で、不正の利益を得る目的で営業秘密を取得した面が強いこと、罰金額が大きいうえに懲役刑とともに科される可能性があり刑罰が重いことから、Aさんは不正競争防止法違反により処罰されるでしょう。

このように、営業秘密の書かれた書類を持ち出す行為には、業務上横領罪窃盗罪、さらには不正競争防止法違反が成立する可能性があり、会社との示談交渉のためにも出来る限り早期に弁護士を選任することが重要となります。

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