神戸市垂水区の不動産侵奪事件
神戸市垂水区の不動産侵奪事件
神戸市垂水区の不動産侵奪事件について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
【事件】
Aさんは神戸市垂水区に所在する,市が所有している開発予定の空き地に簡易住宅を建設し居住を開始しました。
この簡易住宅は角材同士を釘で接合し,ベニヤ板を外壁とし,トタン屋根を釘付けしたもので,柱となる角材と土地とは固定されていませんでした。
パトロール中の兵庫県垂水警察署の警察官が簡易住宅に入ろうとしていたAさんに対し職務質問をし,Aさんは事情聴取のため兵庫県垂水警察署に同行することになりました。
(フィクションです)
【不動産侵奪罪】
他人の物を盗むと窃盗罪(刑法第235条)となりますが,それが他人の不動産であった場合は不動産侵奪罪(刑法第235条の2)という犯罪になります。
刑法第235条の2
他人の不動産を侵奪した者は,10年以下の懲役に処する。
「他人の」というのは他人の占有が及んでいるということを意味します。
もう少し具体的には,他人の事実上の支配下にあることをいいます。
そして不動産侵奪罪の対象である「不動産」とは,土地と建物(民法第86条第1項)のことをいいます。
不動産侵奪罪は窃盗罪とその客体が異なるだけで,残りの成立要件は変わりません。
「侵奪」とは,窃盗罪における「窃取」と同じく他人の占有を排除して自己または第三者の占有を設定することをいいます。
この占有とはあくまで事実上の支配関係を意味しますので,例えば不動産登記を無断で行ったとしても,無断で登記をした人がその不動産を占有していなければ不動産侵奪罪にはあたりません。
ただし,登記名義を勝手に変更したことによって公正証書原本等不実記載罪(刑法第157条)などの罪に問われる可能性があります。
また,主観的要素として不法領得の意思が必要とされる点も窃盗罪と共通しています。
不法領得の意思とは,権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様に利用しまたは処分する意思ないし目的をいいます。
それでは,どのような場合に不動産の侵奪があったとされるのでしょう。
裁判所は,侵奪行為に当たるかどうかは,具体的事案に応じて,不動産の種類,占有侵害の方法,態様,占有期間の長短,原状回復の難易,占有排除及び占有設定の意思の強弱,相手方に与えた損害の有無などを総合的に判断し,社会通念に従って決定すべきとしています。
客体となった不動産が現在利用されていた場合や,占有侵害の方法・態様が重かったり,占有期間が長期に及んでいたあるいは及ぶであろうことが当然に予想される場合,原状回復が困難であった場合,占有排除意思が強かった場合などは侵奪行為に当たるとされる可能性が高くなります。
今回の事件では,Aさんは市が所有している空き地に簡易住宅を建てています。
空き地であっても市の開発予定地であることから市の占有下にある土地であることがうかがわれます。
建てられた簡易住宅にAさんが居住を始めていることから,もし不動産侵奪罪の被疑事実で捜査や起訴をされてしまった場合は,市による土地利用を妨げる占有侵害は長期に及ぶことが予想されるほか,Aさんの占有設定意思は強いものと検察や裁判所に認定される可能性は十分に考えられます。
しかし,この簡易住宅は角材とベニヤ板およびトタン板のみを素材とするとても簡素なもので,土地に接合されていない点も含めて原状回復が容易であると主張できます。
また,事案の概要からは明らかではありませんが,簡易住宅に利用された土地面積が狭ければそれも主張することでAさんの行為が不動産侵奪罪にいう侵奪といえるほどの強度がなく,また当罰性が低いと主張することもできそうです。
不動産侵奪罪の被疑者となってしまっても,被害者との示談を成立させることにより不起訴処分や執行猶予となる可能性を高めることができます。
刑事事件に強い弁護士に依頼することによって依頼者により有利な条件で示談を成立させることが期待できます。
否認される場合であっても,Aさんのケースのように侵奪の程度が低いことを主張するほか,不法領得の意思がないことを主張することによっても嫌疑不十分による不起訴や無罪判決を狙うことはできます。
被疑事実を認めるにせよ,否認するにせよ,早期から弁護活動を始めなければ依頼者の期待に応えた結果を得られる可能性は下がっていってしまいます。
不動産侵奪罪の被疑者となってしまった方,兵庫県垂水警察署で取調べを受けることになってしまった方は,お早めに刑事事件に強い弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。