万引きと最初の執行猶予

2019-04-25

万引きと最初の執行猶予

神戸市長田区に住むAさんは,数年前から万引きを繰り返すようになり,これまでに,2回,警察の微罪処分を受けていました。
そして,ある日,Aさんはスーパーで万引きしたところを保安員に目撃され逮捕されてしまいました。
Aさんの逮捕の通知を受けた母親は,何としてでも実刑だけは避けたいと思い,執行猶予付き判決の獲得を目指して弁護士に刑事弁護を依頼することにしました。
(フィクションです)

~ 執行猶予とは ~

刑の執行猶予とは,有罪判決をして刑を言い渡すに当たって,情状により,その執行を一定期間猶予し,その期間を無事経過したときは刑の言渡しを失効させる制度のことをいいます。
刑の執行猶予には,大きく分けて「刑の全部の執行猶予の制度」と,「刑の一部の執行猶予の制度」の2種類があり,前者はさらに,「最初の執行猶予の制度」と「再度の執行猶予の制度」の2種類に分けられます。
このコラムでは,「刑の全部の執行猶予の制度」のうち,「最初の執行猶予の制度」についてご説明いたします。

~ 最初の執行猶予の制度 ~

最初の執行猶予(付き判決)を受けるための要件は,刑法25条1項に規定されています。

刑法25条1項
次に掲げる者が3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは,情状により,裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間,その刑の全部の執行を猶予することができる

1号 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2号 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても,その執行を終わった日又はその執行の免除を受けた日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

つまり,最初の執行猶予(付き判決)を受けるには,
1 3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けること
2 上記1号,あるいは2号に該当すること
3 (執行猶予付き判決を言い渡すのが相当と認められる)情状があること
が必要ということになります。

~ 上記1について ~

まず,上記1からすると,執行猶予を獲得する可能性があるかどうか,その可能性はどの程度のものかどうか知るには,犯した罪について定められている刑(法定刑)を確認する必要があります。

この点,窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」ですから,「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けること」の要件を満たす可能性はあります(同じ窃盗罪でも「懲役4年」の刑を言渡しを受ければ執行猶予付き判決を受けることはできません)。

~ 上記2について ~

= 1号について =
「前に」とは,執行猶予判決を言い渡される前にという意味です。
「禁錮以上の刑に処せられた」とは,禁錮以上の刑を言い渡した判決確定したことをいうのであって,その確定判決の執行を受けたことを意味しませんから,刑の執行を猶予された場合も含まれます。
つまり,刑法25条1項1号の「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」とは,
・なんら前科のない人
・前科があっても罰金刑(実刑,執行猶予付きを含む)以下の前科を有する人
を意味することになります。
なお,裁判を受けたものの無罪判決を獲得し,その裁判が確定した人も「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」に含まれることはいうまでもありません。
Aさんの場合,過去に微罪処分を受けたということですが,微罪処分を受けたとしても「前科」にはなりませんから,Aさんは刑法25条1項1号の「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」に当たります。

= 2号について =

禁錮以上の刑に処せられ,刑務所に服役した方(実刑となった方)であっても2号により執行猶予を獲得できる場合があります。
2号の「執行を終わった」とは,刑務所の服役期間が満了したという意味で,「執行を終わった日」とはその翌日を意味すると解されています。
そして,その「執行を終わった日」から5年間,禁錮以上の刑に処せられたことがない者は2号に当たり,執行猶予を獲得できる場合があるのです。

~ 上記3について ~

情状は,犯罪そのものに関する情状(犯情)とその他の一般情状に区別されます。
犯情とは,犯行動機・態様,被害結果などの要素があり,万引きが終わった後ではいかんともしがたい事実です。
他方,一般情状については,万引き後でも,いくらでも有利に動かすことができます。
事実を認めるのであれば,まずはスーパー側に謝罪することが必要でしょう。

そして,反省を深め,被害者が被った被害に思いをいたし,被害弁償を進め,可能であれば示談を締結する必要があります。
それが,裁判では,有利な情状として考慮され得るからです。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,窃盗罪をはじめとする刑事事件少年事件専門の法律事務所です。
刑事事件での執行猶予付き判決の獲得をご検討中の方は,フリーダイヤル0120-631-881までお気軽にお電話ください。
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兵庫県永田警察署までの初回接見費用:3万5,200円)

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