窃盗事件で間接正犯

2020-11-19

間接正犯について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~
小学生のB(10歳)は、実の母親と母親の交際相手であるAと福岡県春日市で一緒に生活していました。
Aは、Bに対して直接暴力を振るうことはありませんでしたが、その粗暴な言動からBはAに対して日頃から恐怖心を抱いていました。
ある日、AとBとで出かけた際に、Bは、Aから、市内のコンビニでギフトカードをポケットに入れて取ってくるよう命じられました。
Bは、Aからの命令に背くことができず、嫌々ながら言われた通りにギフトカードを万引きしました。
後日、福岡県春日警察署の警察官が自宅にやってきて、コンビニでの万引きの件でBに話が聞きたいと言われ、Bは警察署に母親と一緒に行くことになりました。
Bは、「Aに言われたからやった。Aは怖い人だから断れなかった。」と言っており、警察はAについても話を聞くことにしました。
(フィクションです)

間接正犯とは

窃盗罪というのは、他人の財物を窃取するという犯罪です。
窃盗罪の基本的構成要件に該当する行為である「他人の財物を窃取する」という行為を自ら行う者を「正犯」と呼びます。
これに対して、複数人で共同して犯罪を実現する場合を「共犯」といいます。

正犯には、単独正犯と共同正犯とがあり、前者には行為者みずから手を下す直接正犯と他の人間を利用して犯罪を実行する間接正犯とがあります。
ここでは、上の事例で問題となっている「間接正犯」について説明します。

間接正犯」というのは、他人を道具として利用することによって、犯罪を実現する場合のことをいいます。
一般に、間接正犯が認められるのは、①事情を知らない者を利用する場合、②幼児や重度の精神病者など是非弁識能力のない者を利用する場合、③他人を強制して犯罪を行わせる場合、などです。

14歳未満の刑事未成年者を利用する場合について、判例は、画一的な判断をせず、背後者の強制の有無や程度、刑事未成年者の意思抑圧の有無や程度などを実質的に考慮して判断しています。

(a)間接正犯を成立させた事例
被告人は、12歳の養女に対し、日頃から被告人の言動に逆らう素振りを見せるたび、顔面にたばこの火を押し付けたり、ドライバーで顔をこすったりするなどの暴行を加えており、自己の意のままに従わせていました。
この養女に窃盗を命じてこれを行わせ事案について、最高裁は、被告人が自己の日頃の言動に畏怖し意思を抑圧されている養女を利用して窃盗を行ったと認め、たとえ養女が是非善悪の判断能力を持っているとしても、被告人については窃盗間接正犯が成立するとの判断を示しました。(最決昭58年9月21日)
窃盗を行った者が12歳であり刑事未成年者のため本人に対しては窃盗罪は成立しません。
刑事未成年者を利用する場合、一律で間接正犯を認めるのではなく、行為者の年齢を考慮し是非弁識能力の有無が検討されますが、当該能力が認められる場合であっても、背後者による強制があり、行為者の意思が抑圧されていると認められるのであれば、間接正犯が成立するものと判断されます。

(b)間接正犯の成立を否定した事例
被告人が生活費欲しさから強盗を計画し、12歳10か月の長男に指示命令して強盗を実行させた事案において、長男には当時是非分別能力があり、被告人の指示命令は長男の意思を抑圧するに足りる程度のものではなく、長男は自らの意思によってその実行を決意した上、臨機応変に対処して強盗を完遂し、長男が奪ってきた金品をすべて被告人が領得したなど判示の事実関係の下では、被告人につき強盗の間接正犯または教唆犯ではなく共同正犯が成立する、との判断を示したものがあります。(最決平13・10・25)
本件では、被利用者には是非弁識能力があること、意思の抑圧の程度が弱い、指示命令されたこと以外の行為も自分自身の意思で決して実行していることから、他人を道具として利用することによって犯罪を実現したものであるとは言えないとするものです。

以上を踏まえると、上の事例においても、例えBがある程度の是非善悪の判断能力を有していたとしても、Aには、A自身の言動に畏怖し意思を抑圧されている10歳の少年Bを利用して自分の犯罪行為をおこなったものとして、窃盗間接正犯が成立すると認められる可能性があります。

このように、自分自身が直接犯罪行為を行っていない場合であっても、間接正犯として罪責を負う場合があります。
間接正犯は正犯として扱われます。

間接正犯が成立するか否かは、事案にもよりますので、一度刑事事件に強い弁護士にご相談されるのがよいでしょう。

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