窃盗罪と親族相盗例

2019-04-15

窃盗罪と親族相盗例

さいたま市浦和区に住むAさん(20歳)は,近所に住む叔父Vさんの家に遊びに行った際,小遣い銭欲しさにVの財布の中から1万円札1枚を抜き取りました。
その直後に1万円札がなくなったことに気づいたVさんは,泥棒に入られたと勘違いし,埼玉県浦和警察署に110番通報し,被害届を提出しました。
事の重大さに気づいたA君は,その後両親に相談し,A君と両親は今後の対応について,弁護士のもとへ相談に行くことにしました。
(フィクションです。)

~ 窃盗罪 ~

AさんがVさんの財布の中から1万円札を抜き取る行為は窃盗罪に当たります。
窃盗罪の条文は以下のようになっています。

刑法235条
他人の財物を窃取した者は,窃盗の罪とし,10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

~ 親族相盗例 ~

親族相盗例とは,親族間に関する犯罪の特例のことをいいます。
これは,「法は家庭に入らず」という思想に基づいています。
すなわち,親族間の内部的なことは,それが犯罪であっても,国家が積極的に介入することを差し控え,親族間相互の規律に委ねる方が親族間の秩序維持のためにも望ましいことであり,刑事政策上も妥当であるという考え方によるものです。

= 窃盗罪・不動産侵奪罪の親族相盗例に関する規定 =
窃盗罪(刑法235条)・不動産侵奪罪(刑法235条の2)の親族相盗例については刑法244条に規定されています。

刑法244条
1項 配偶者,直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪,第235条の2の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は,その刑を免除する。
2項 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は,告訴がなければ公訴を提起することができない。
3項 前2項の規定は,親族でない共犯については,適用しない。

親族相盗例は,窃盗罪・不動産侵奪罪のみならず,詐欺罪,背任罪,恐喝罪,横領罪の各罪について準用されていますが,強盗罪には適用されていません。

強盗罪は,他の罪に比べ非常に悪質な罪であるため,親族間の規律に委ねるのは相当でないからです。

= 刑を免除される親族 =
この親族相盗例によって刑を免除される親族は,「配偶者」「直系血族」「同居の親族」です。
「配偶者」とは,いうまでもなく婚姻関係にある相手方のことをいいます。
「配偶者」には内縁関係にある者は含まれないと解されています。
「直系血族」とは,祖父母-父母-子-孫といった縦の関係の血族をいいます。
ですから,兄弟,姉妹といった横の関係は含まれません。
しかし,養親と養子といった直系の法定血族は「直系血族」に含まれます。
そして,「同居の親族」とは,同一住居内で日常生活を共同にしている親族のことをいいます。 

ここでいう「親族」については民法725条の規定によります。
民法725条の規定によれば「親族」とは
1 六親等内の血族
2 配偶者
3 三親等内の姻族
をいうとされています。
ですから,「同居の親族」とは,同居している六親等内の血族又は三親等内の姻族のこといいます。

= 告訴が必要な親族 =
刑法244条2項によれば,「配偶者,直系血族又は同居の親族以外の親族」については,告訴がなければ公訴を提起する(起訴する)ことができないとされています。
このように,公訴の提起に告訴を必要する犯罪を親告罪といいます。

~ 本件の検討 ~

では,本件のVさん(叔父)は,いずれの親族に当たるのかみていきましょう。
まず,Aさんの「配偶者」でないことは明らかです。
また,直系血族とは,先ほどご説明したとおり,祖父母-父母-子(A君)-孫といった縦の関係をいいますから,VさんはAさんの「直系血族」ではありません。
また,Vさんは叔父ですから,Aさんからみれば「三親等の血族(親族)」には当たりますが,Aさんとは別居しているようですから,「同居の親族」にも当たりません。
以上から,Vさん(叔父)は,刑法244条2項の「配偶者,直系血族又は同居の親族以外の親族」に当たることになります。

よって,結論としては,Aさんの窃盗罪は免除されないが,告訴がなければ起訴はされないということになります。

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