【事例解説】死んでいる人の財布を盗んだ事例①
死んでいる人の財布を盗んだ事例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
【事例】
愛知県内に住む大学生のAさんは、夜間人通りの少ない道路で、Vさんが血を流して倒れているのを見つけました。
その時には既にVさんは死んでおり、AさんもVさんは死んでいると確信していました。
そうしたところ、Vさんのズボンのポケットの中に財布があるのを見つけ、Aさんはこれを自分のものにしようと持ち去りました。
後日、Vさんが死亡した件が事件化し、警察による捜査の中で、Aさんは警察に逮捕されることになりました。
(フィクションです)
【今回の事例で問われる罪とは】
今回の事例では、占有離脱物横領罪か窃盗罪のいずれかに問われうる可能性があります。
占有離脱物横領罪とは、刑法254条(出典/e-GOV法令検索)により「遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領」する罪であると定められており、その法定刑として「一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料」が定められています。
他方、窃盗罪とは、刑法235条(出典/e-GOV法令検索)により「他人の財物を窃取」する罪であると定められており、その法定刑として「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金刑」が定められています。
以上のようにこれらの罪についての法定刑は、大きな隔たりがあるため、どちらの罪に問われるかは極めて重要な点となります。
今回の事例でこの両罪を分けるのは、AさんがVさんの死亡に関与していたか否かです。
すなわち今回の事例では、Vさんの死亡にAさんが関与していた場合は、窃盗罪ないし強盗殺人罪が、他方Vさんの死亡にAさんが関与していない場合は、占有離脱物横領罪が成立することになります。
具体的には、
Bさんの占有が肯定される場合、Aさんは「他人の財物を窃取」したことになるため窃盗罪に問われることになるでしょう。
他方、Bさんの占有が否定される場合、Aさんは「占有を離れた他人の物を横領」したことになるため占有離脱物横領罪に問われることになります。
この点について、刑法上の占有が認められるためには、客観的な要件としての財物に対する事実上の支配と、主観的な要件としての財物を支配する意思が必要であると考えてられています。
そしてそれらの事由を総合的に考慮して、占有の有無が判断されます。
今回の事例では、AさんはVさんの死亡について何ら関与していないことから、占有離脱物横領罪に問われる可能性が高いといえるでしょう。