特殊詐欺における窃盗罪

2019-12-06

特殊詐欺における窃盗罪

特殊詐欺における窃盗罪について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

Aは,福岡県筑後市において,特殊詐欺(振り込め詐欺)により,被害者がだまし取られたキャッシュカードを使用し,上記被害者の預金口座からATMより現金を複数回引き出していた。
特殊詐欺事件の被害を受けて捜査をしていた福岡県筑後警察署の警察官は,防犯カメラの映像などからAを窃盗罪の疑いで逮捕した。
Aの家族は,特殊詐欺事件窃盗事件に強いと評判の刑事事件専門の弁護士に相談することにした。
(本件は事実をもとにしたフィクションです。)

~特殊詐欺と窃盗罪の関係~

本件Aは,いわゆる特殊詐欺(振り込め詐欺,現金受取型の詐欺などの総称)によって,だましとられたキャッシュカードを使い,被害者の口座から現金を引き出しています。
特殊詐欺事件において,こうした役割は「出し子」と呼ばれます。

まず一般の方が直感的に感じるのは,これは詐欺罪なのではないのかということではないでしょうか。
しかし,今回のAは窃盗罪で逮捕されており,詐欺罪では逮捕されていません。
これは,いかなる理由によるものなのでしょうか。

この点,刑法246条1項は「人を欺いて」「財物を交付させた者」を詐欺罪とする旨を定めており,「人」に対する行為にのみ詐欺罪の成立を認めています。
なぜならば,詐欺罪とは,人の意思に基づいて被害物が移転するという,交付罪であることに本質があるからです。
したがって,Aがキャッシュカードにより他人の口座から現金を引き出した行為自体は,振り込め詐欺の被害者の意思に基づく交付とはいえず,詐欺罪ではなく窃盗罪(刑法235条)に問疑されることになります。

刑法典は,「他人の財物を窃取した者」を窃盗罪とする規定を置いており,上記で見た詐欺罪の規定と異なり,客体を「人」に限っていません。
これは,窃盗罪が,詐欺罪とは反対に,被害者の意思に反する財物の移転を処罰する犯罪であり,被害者からの直接の交付を必要としないことによります。
したがって,ここでは,本来口座からの引出し権限を持たないAが,銀行の意思に反して現金を自らに移転させたということが問題となるため,窃盗罪の被害者は銀行だということになります。
そして,上記行為は銀行が設置したATMから「財物」たる現金を「窃取」したといえ,Aの行為には窃盗罪が成立することになります。

また,同銀行との関係では,AがATM設置店に入った行為自体が,建造物の管理者の意思に反する立ち入りとして,建造物侵入罪(130条前段)に当たり得ることにも注意が必要です。

もちろん,特殊詐欺に協力している認識を持ちながらこういった行為をしている場合には窃盗罪だけでなく詐欺罪も成立するため,今回の事例のAの認識次第では,今後詐欺罪での捜査や再逮捕も考えられます。

~出し子に対する弁護士の弁護活動~

この場合に,前提行為たる特殊詐欺(振り込め詐欺等)について,被疑者(本件A)の関与があるのかどうか等が,重要な事実なります。
前述したように,前提行為との共謀等が認められる場合には,窃盗罪のみならず詐欺罪(振り込め詐欺)の罪責も負う可能性があるからです。

起訴するかどうか,あるいはどのような罪で起訴するかどうかについては,基本的に検察官の裁量(起訴便宜主義・起訴独占主義)によるため,弁護士としては,被疑者の行為に対する処分をより軽くするために検察官に対する様々な働きかけを行っていくことが考えられます。
したがって,弁護士としては,Aは出し子として窃盗行為にのみ関与したにすぎないこと,あるいは詐欺に関与している場合には被害者との示談が成立していること等の事情があればそれを主張し,被疑者のための積極的な弁護活動を行っていくことなります。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,特殊詐欺のからむ窃盗事件を含む刑事事件を専門的に取り扱う法律事務所です。
近年,特殊詐欺事件は社会問題と化しており,刑事事件としても重要性を増しています。
また,次々と最高裁判例が出されている分野でもあり,最新の刑事事件に関する知識が不可欠です。
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