マイバッグで万引き事件
万引き事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
埼玉県加須市にあるスーパーでは、レジ袋の有料化に伴い、マイバッグに未精算の商品を入れて店を出る万引きの増加に頭を悩ませていました。
店ではマイバッグを利用した万引き対策を強化していました。
ある日、店長は、店内で持参したマイバッグに次々と商品を入れている女性を見つけ、注意していると、女性はレジで精算することなく店の出口に向かいました。
慌てて女性の後を追った店長は、女性が出口の自動ドアを出ようとした瞬間に声をかけ、精算の有無の確認をしました。
すると、女性は、「あら、すっかり忘れていたわ。」と言って悪びれる様子もなく、レジに向かいました。
実はこの女性、数日前にも店員に精算確認で出口付近で声をかけられており、店長は女性が万引きの常習犯であると疑っています。
店長は、埼玉県加須警察署に連絡することにしました。
(フィクションです)
今年の7月より、スーパーマーケットやコンビニなどの買い物袋が有料となりました。
買い物袋の有料化に伴い、マイバッグの活用が推奨され、これを機にマイバッグを購入・利用され始めた方も多いのではないでしょうか。
一方、スーパーマーケットなどでは、マイバッグを利用した万引きが増加しており、店側も対策に頭を悩ませているそうです。
皆様ご存じの通り、万引きは、通常、窃盗罪という犯罪に当たります。
窃盗罪とは、刑法235条に規定されている、他人の財物を(不法領得の意思に基づいて)窃取する犯罪です。
◇他人の財物◇
他人の財物というのは、他人が占有する他人所有の財物のことです。
ここでいう「占有」というのは、人が財物を事実上支配し、管理する状態のことを意味します。
スーパーマーケットの商品棚等に陳列されている商品は、店(店長)が管理しており、他人の財物となります。
◇不法領得の意思◇
窃盗罪の主観的要件として、故意(①財物が他人の占有に所属していること、および、②その占有を排除して財物を自己または第三者の占有に移すことを認識すること)に加えて、「不法領得の意思」があります。
不法領得の意思とは、権利者を排除し他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従いこれを利用もしくは処分する意思のことをいいます。
◇窃取◇
窃取とは、占有者の意思に反して財物に対する占有者の占有を排除し、目的物を自己または第三者の占有に移すことをいいます。
窃盗罪は、財物につき他人の占有を侵害する現実的危険が発生したときに、実行の着手が認められ、占有を取得したときに既遂となる、と理解されています。
窃盗の既遂時期は?
それでは、万引きの場合、いつ窃盗罪が成立するのでしょうか。
窃盗罪は、占有を取得したときに既遂となりますが、占有を取得したか否かの判断においては、財物の性質、形状、財物に対するそれまでの占有状況、窃取行為の態様等を考慮されます。
窃盗罪が既遂になるためには、その相手方の占有を奪取する必要がありますが、窃盗罪には、住居侵入窃盗、置き引き、万引き、すりなどいろいろな形態があり、その形態に応じて既遂時期も異なります。
また、被害品の大きさや形状などにも影響されます。
スーパーマーケットなどで陳列されている商品を万引きする場合、例えば、犯人が身につけることができるような小型の財物については、犯人がそれを自己のポケットやカバンの中に入れたり、自己の着衣の内側に隠した段階で、これを実力支配することになるため、その時点で既遂になると考えられています。
他方、スーパーマーケットなどの店舗内の商品は、小型の財物を除けば、一般的には、店舗外に持ち出した段階に至って初めて既遂になるとされています。
例えば、スーパーマーケットでは、通常、レジを通る際に代金の支払いがなされますので、このレジを通らずに外部に商品を持って出た段階で既遂が認められるでしょう。
上の事例のような場合、店外に商品が陳列されているような店でなければ、レジを通らずに商品をマイバッグに入れたまま店の出口から出ようとした段階で、既遂となるでしょう。
ただ、Aさんは、支払いを忘れていた旨を述べています。
故意、不法領得の意思がないのであれば、窃盗罪は成立しません。
ただし、本人が「支払うつもりだったが、すっかり忘れていた。」と主張したからといって、必ずしもその主張が認められるわけではありません。
店を出るタイミングで、未精算の商品を持ってることの認識があれば、当然、それらの商品の支払をすませなければならないという認識がありますので、そうであれば窃盗の故意、不法領得の意思が認められます。
客観的にそのような認識が認められるには、例えば、マイバッグにどれだけの商品を入れていたかも認識の有無を判断する要素になるでしょう。
けっこうな量が入っていたなら、商品を持っていることの認識がないわけがないですから。
Aさんの場合、数日前にも同じような行為を目撃され店側から注意を受けているわけですから、短期間で同じ行為を繰り返したことから、そもそも支払う意思がなかったと認められる可能性はあるでしょう。
警察が検挙する犯罪のうち窃盗罪が占める割合は大きく、万引きは主な窃盗形態となっています。
バレなければ…、という気持ちから何度も犯行を重ねるうちに発覚し、刑事事件化するケースが多く見られます。
初犯であれば微罪処分で終了することもありますが、前科前歴の有無、犯行態様、被害額などによっては起訴され有罪となる可能性もありますので、軽く見ずしっかりと対応する必要があります。
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