(事例紹介)摂食障害と万引き事件 再度の執行猶予となった事例

2022-09-12

(事例紹介)摂食障害と万引き事件 再度の執行猶予となった事例

~事例~

(前略)
窃盗罪で有罪判決を受け、執行猶予期間中に再び万引したとして、同罪に問われた被告の無職女(40)=本籍白山市=に対し、金沢地裁は9日、「摂食障害に伴う窃盗癖が影響した」として懲役1年、保護観察付き執行猶予4年(求刑懲役1年6月)の判決を言い渡した。刑法上は原則、執行猶予が取り消され実刑となるケースだが地裁は社会で治療に専念すべきと判断した。

9日の判決によると、被告は昨年4月、窃盗罪で猶予刑の判決を受けた。しかし同10月、金沢市の雑貨店でエコバッグ1袋を万引して逮捕された。さらに保釈後の今年5月には、同市のスーパーでクッキーなど32点を万引した。

刑法では、特に酌量すべき情状がある場合に限り、再度の猶予を認めている。裁判では、被告に再度執行猶予を与えるかが争点となっていた。

判決文では、被告は長年過食と嘔吐を繰り返し、食品を自宅にためておきたいなどの思いで万引を重ねるようになった。被告は公判で「何度も治療したのに再犯する自分が怖い」と語っていた。

判決理由で白井知志裁判官は「精神疾患の影響が強く、被告が現在も治療の努力を続けている」と指摘。その上で、治療に専念させることで再犯防止を図るのが相当と結論づけた。
(後略)
(※2022年9月10日5:01YAHOO!JAPAN配信記事より引用)

~摂食障害と万引き事件~

今回報道された事例では、摂食障害に伴う窃盗癖(クレプトマニア)の女性が万引き事件を起こし、執行猶予判決となったと報道されています。
今回報道された事例では、女性は過去に起こしてしまった窃盗事件の執行猶予期間中に万引き事件を起こしてしまい、さらにその万引き事件の保釈中にも別の万引き事件を起こしてしまったということのようです。

摂食障害とは、食事に関連した行動の異常が続き、心身に影響が及ぶ病気を呼びます。
例えば、食べる量を自分でコントロールできずに食べ物を多量に食べてしまったり、反対に食べ物を食べることができず絶食してしまったり、物を食べても自分で嘔吐してしまったり、下剤などを規定以上に使用してしまったりという症状が挙げられます。
摂食障害は体重・体形への不満・心配がきっかけになることもあり、摂食障害の患者は女性が多いと言われています。

この摂食障害に伴い、窃盗癖(クレプトマニア)という障害が出てしまうことがあります。
窃盗癖(クレプトマニア)とは、万引きなどの窃盗行為を繰り返してしまう病気であり、自分で使うためであったりお金が不足しているためではないのに窃盗行為を繰り返してしまうなどの症状があります。

摂食障害のうち、たくさん食べてしまう(いわゆる過食症)の症状が出ている場合には、この窃盗癖(クレプトマニア)を併発してしまうということがあります。
食べ物をたくさん食べてしまうということからかかるお金が多くかかってしまう、食べるためのものが多く必要になってしまうといったことから、万引きに至ってしまうというケースがあるようです。

~万引き事件と再度の執行猶予~

引用した記事にもある通り、通常、執行猶予中に犯罪をしてしまったら、その執行猶予は取り消され、猶予中にしてしまった犯罪の刑罰だけでなく、執行猶予がついていた過去の犯罪に対する刑罰も受けることになります。
しかし、記事内でも触れられている通り、刑法では、特に酌量すべき事情がある場合に限って再度執行猶予をつけることを認めています。

刑法第25条第2項
前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が1年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。
ただし、次条第1項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

今回取り上げた事例にあてはめてみましょう
女性に言い渡された刑罰は、懲役1年=「1年以下の懲役」です。
また、万引き事件を起こすにあたって、女性の患っている摂食障害窃盗癖(クレプトマニア)の影響が大きいことや、女性が摂食障害や窃盗癖の治療を継続していることが「情状に特に酌量すべきもの」であると判断されたと考えられます。
これによって、女性には再度の執行猶予判決が言い渡されたものと考えられるのです。

最近では、有名なマラソンランナーの女性が万引き事件で検挙され摂食障害窃盗癖(クレプトマニア)を公表したこともあり、摂食障害やそれにともなう窃盗癖(クレプトマニア)も周知されるようになってきました。
もちろん、だからといって万引きなどの窃盗行為が許されるというわけではありませんし、摂食障害窃盗癖(クレプトマニア)だからといって必ず刑罰が減刑されたり執行猶予が付いたりするわけではありません。
しかし、今回取り上げた事例のように、刑務所に行くよりも社会内での治療が必要であるというケースがあることも事実ですから、摂食障害窃盗癖(クレプトマニア)の影響が疑われる窃盗事件では、再犯防止活動と共に適切な活動を行っていくことが重要でしょう。

窃盗事件も取り扱う弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、こうした摂食障害窃盗癖(クレプトマニア)に関連した万引き事件についてのご相談も受け付けています。
なかなか周囲に相談しづらいことも、弁護士であれば安心してご相談いただけます。
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