クレプトマニアが疑われる場合

2021-06-03

窃盗事件でクレプトマニアが疑われる場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~
兵庫県姫路市のスーパーマーケットで食品や日用品を万引きしたとして、兵庫県姫路警察署は、市内に住むAさんを窃盗の容疑で逮捕しました。
Aさんには万引きの前科・前歴があり、1年ほど前に、略式手続で略式命令(罰金刑)を受けていました。
Aさんは、事件当時1万円を所持しており、入店直後から店外で保安員に声を掛けられるまでの店内での記憶がなく、取調べでもその旨を述べています。
逮捕の連絡を受けたAさんの家族は、Aさんはクレプトマニアではないかと疑っており、接見を依頼した弁護士にもその点について話しています。
(フィクションです。)

万引きが犯罪であることを認識していながら、何度も万引きを繰り返してしまうケースは少なくありません。
万引きに走る理由は、何も経済的なものに限りません。
「十分な所持金があるのに、特にそれほど必要のない物をとってしまう。」
「だめだとわかっていながら、万引きをやめることができない。」
常習的な窃盗をおおきく3つに分類すると、
①経済的利益のために金目の物や金銭を盗む職業的犯罪、
②貧困から食べ物や生活必需品を盗むもの、
③経済的余裕はあるが、些細な物を盗むもの、
となります。
経済的な理由から万引きを行うのではない③の場合には、精神障害が疑われることがあります。

精神障害としての病的な窃盗に、クレプトマニアという疾患があります。

アメリカ精神医学会が出版している精神疾患の診断基準・診断分類によれば、クレプトマニアの診断基準は、以下の5項目からなります。
①個人的に用いるためでもなく、またはその金銭的価値のためでもなく、物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される。
②窃盗に及ぶ直前の緊張の高まり。
③窃盗に及ぶときの快感・満足・解放感。
④その盗みは、怒りや報復を表現するためのものではなく、妄想・幻覚への反応でもない。
⑤その盗みは、素行症、躁病エピソード、反社会性パーソナリティ障害ではうまく説明されない。

クレプトマニアは、単独で診断される場合もありますが、拒食症や過食症の摂食障害を併発している場合も少なくありません。
また、摂食障害を併存している場合、解離性障害も併存していることが多いようです。

万引きの再犯事件において、弁護士は、まず、繰り返す万引き行為の原因や背景事情を究明しなければなりません。
それは、万引きを繰り返してしまうことの原因を明らかにしなければ、有効な再犯防止措置を講じることができないからです。
有効な再犯防止措置を講じることができなければ、有効な情状立証をすることが難しくなってしまいます。
クレプトマニアである場合には、刑罰だけでは再犯を防止することは難しく、専門的な治療が必要となります。
そのため、クレプトマニアが疑われるケースでは、専門家につなげ、クレプトマニアその他の精神障害にり患しているのかどうかを診断してもらい、専門的な治療を受けるようにすることが重要です。
また、逮捕・勾留により被疑者・被告人の身柄が拘束されている場合には、治療を受けるために、弁護士は、できる限り早期に釈放となるよう身柄解放活動を行います。
有効な再犯防止措置を講じるには、被疑者・被告人の家族の協力が必要不可欠です。
弁護士は、家族や専門機関と連携し、再犯防止に向けた環境を整える支援をします。

クレプトマニアが疑われる場合、弁護士は、有効な再犯防止策が講じられていることを、客観的な証拠に基づいて示すことで、寛大な処分となるよう弁護する役割を担います。

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