窃盗未遂罪から事後強盗未遂罪①

2019-09-12

窃盗未遂罪から事後強盗未遂罪①

京都市伏見区に住むAさんは、パチンコ等のギャンブルにお金を使っては消費者金融に借金をすることを繰り返し、借金額を合計200万円くらいまで膨らませてしまいました。
そこで、何とかこの事態を打開したいと考え、Aさんは日頃から目を付けていたVさん(85歳)方に盗みに入ることに決めました。
Aさんは、ホームセンターで侵入のための工具(マイナスドライバー、軍手等)を購入し、Vさんが不在のときを見計らってVさん方に入ろうと思い、Vさん方付近に張り込んでVさんの行動を確認していました。
そして、Aさんは、Vさんが自宅を出たと確認した後、購入した侵入工具を使うなどしてVさん方に入り、タンスの引出しを開けるなどの物色を始めました。
ところが、Aさんは、数十分経っても金目の物を見つけることができませんでした(後日、Vさんは用心のため、自宅にはお金の物を置いていなかったことが判明)。
そこで、AさんはVさん方を出ようとしたところ、ちょうどVさんを訪ねてきたVさんの息子であるWさん(60歳)と鉢合わせになりました。
Aさんは、Wさんから声をかけられ捕まられそうになったため、Wさんの顔を持ってきていたバールで1回殴打してその場から逃走しました。
しかし、Aさんは、京都府伏見警察署住居侵入罪事後強盗未遂罪で逮捕されてしまいました。
(フィクションです。)

~窃盗罪の成立過程~

本件のAさんは住居侵入罪事後強盗未遂罪で逮捕されていますが、本件で成立しうる犯罪としては窃盗未遂罪ではないかと思った方もいるのではないでしょうか?
そこで、この機会に窃盗未遂罪が成立する過程を細かくみていきたいと思います。
まず、本件は、大きく、

1 AさんがVさん方に盗みに入ることを決意
2 Aさんが侵入工具を購入し、Vさんの行動を確認
3 AさんがVさん方へ入り、タンスの引き出し等を物色(結果、何も窃取することはできず)

の3段階に分けられると思います。

まず、1の段階の決意だけでは犯罪となりません。
「何人も思想によりて処罰されることなし」の法諺が当てはまります。
法は行為又は結果として客観化されない「人の内面」にまで踏み込むことはできないのです。

2の段階、つまり、一定の犯罪を実行するための準備行為を「予備」といいます。
「予備」とは、犯罪行為の実行に着手する前の段階をいいますから、あらゆる犯罪について予備罪を設けてしまうと、人々の日常生活の行動を著しく制限してしまうことになりかねません。
そこで、重大な結果を引き起こす蓋然性が高い重大犯罪(殺人罪、放火罪、強盗罪等)に限って予備罪が設けられています。

3の段階、つまり、実行の着手に至ったが、何らかの事情によって結果が発生しなかった場合を「未遂」といいます。
上の「予備」との決定的な違いは「実行の着手」があったか否かです。
「実行の着手」とは、法益侵害に対する現実的危険性を有する行為、と言われていますが、何をもって「実行の着手」とするのかは事案によって個別に判断されます。
未遂罪も各罪に規定がなければ処罰されることはありません。

刑法43条前段
犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。

刑法44条
未遂を罰する場合は、各本条で定める。

~窃盗未遂罪~

ところで、窃盗罪については、未遂罪の処罰規定が設けられています。

刑法235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

刑法243条
第235条から(略)までの罪の未遂は、罰する。

窃盗罪の「実行の着手時期」が問題となることがあります。
この点、判例(大昭9年10月19日等)は、他人の財物に対する事実上の支配を侵すにつき密接なる行為をなしたときとしていますが、密接なる行為か否かは、財物の性質・形状、窃盗行為の態様などを総合的に勘案して判断されるものと思われます。
本件のように他人の自宅に侵入して金品を窃取するいわゆる「侵入盗」の場合は、一般に、物色行為をはじめることをもって「実行の着手」ありとされています。
しかし、何をもって物色行為とするかについても、現場の状況、窃盗行為の態様等により結論が異なります。
なお、本件の場合はタンスの引き出しに手をかけた時点で物色行為あり、すなわち窃盗罪の「実行の着手」ありとされるでしょう。

こうしてAさんにはまず、窃盗未遂罪が成立する可能性が高いでしょう。
では、なぜ今回、Aさんは事後強盗未遂罪の疑いがかけられているのか、という点については次回解説したいと思います。

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